日本のグリーントランスフォーメーション(GX)政策は、気候変動に関する世界的な科学的権威である国連IPCCが示すガイダンスから大きく乖離していることが、英・独立系気候シンクタンク InfluenceMap(日本代表事務所:東京都港区)の調査により明らかになりました。調査結果は、鉄鋼、自動車、電力など重工業セクターにおける企業や業界団体による戦略的な政策関与が、GX政策に関する議論を支配していたことも示しています。
150兆円超えの官民投資を目指す同政策は、世界初の政府発行のトランジションボンドとなるGX経済移行債が含まれることからも、国内外から注目を集めています。一方で、GX政策がどのように1.5℃目標に貢献するのかについては不明確で、詳細な分析が必要とされてきました。
これを踏まえ、InfluenceMapは、世界の気温上昇を1.5℃に抑える経路に関するIPCCガイダンスに沿った政策(以下、「科学的根拠に基づく政策(SBP)」)と、GX政策を比較分析しました。
その結果、GX政策は、特にカーボンプライシングと化石燃料に関連する政策において、ベンチマークから大きく乖離していることが分かりました。
主な分析結果は、以下の通りです:
InfluenceMapの調査によると、日本の産業界によるGX政策に対する関与の圧倒的多数(約900件のデータのうち81%)は、9つの業界団体と8つの企業という、ごく少数の団体によって行われています。 これらには、電力、鉄鋼、自動車、化石燃料生産を代表するセクターが含まれます。
日本経済と雇用の70%を占めるその他のセクター(金融、小売、建設、消費財、ヘルスケアなど)は、GX政策の内容について、ほとんど政策関与を行ってきていないことが分かりました。
全てのデータのうち、科学的根拠に基づく政策と整合した政策関与はわずか26%でした。積極的に発信を行う企業や業界団体の政策関与が科学的根拠に基づく政策と乖離していることが、現在のGX政策と科学的根拠に基づく政策との乖離を引き起こしている可能性があります。
最も積極的に政策関与を行ったのは、約900件の政策関与のデータのうち、15%を占めていた日本経済団体連合会(経団連)でした。 炭素税に反対し、石炭利用の継続につながるアンモニア混焼を支持していることは、特に不一致が見られる分野です。 実際、経団連の現会長である住友化学の十倉雅和氏はGX政策について、「政府が提言のほとんどを取り入れてくれた」と述べています。
有識者コメント
諸富徹 京都大学大学院経済学研究科 教授 / 環境省中央環境審議会臨時委員など、数多くの委員会を務める
「このレポートが、(1)GXが科学的根拠に基づく政策に合致していないこと、(2)そのGXに大きな影響を与えているのが経団連であり、しかもその傘下企業の総意ではなく、一部のエネルギー集約企業の利害が強く反映されていること、この2点を明らかにしたことの意義は大きい。気候変動政策を前進させるように見えて、実はエネルギー集約産業の利害を守ろうとしているのがGX推進法の本質である。カーボンプライシングが不十分に終わり、石炭火力発電が延命される理由も、まさにここにある。我々はGX推進法の問題点を認識し、それを乗り越えて前進を図らねばならない。」
InfluenceMapの日本カントリーマネージャー、長嶋モニカは次のように述べています:
「GX政策に関与している主要な日本企業のメッセージが、 IPCCが示す1.5℃目標への経路と乖離していることを考えると、GX政策が拘束力のあるカーボンプライシングをすぐに導入せず、LNGと石炭を利用した火力発電を支持していることは驚くことではありません。」
「しかし、InfluenceMapの分析によれば、科学的根拠に基づく政策と不整合な政策関与は、ごく少数の企業や業界団体から発信されているものであり、日本の圧倒的多数の企業の声を反映しているものではありません。」
詳細や取材のお問い合わせ先:
長嶋モニカ、日本カントリーマネージャー(東京) E: monica.nagashima@influencemap.org
武井七海、アナリスト(東京) E: nanami.takei@influencemap.org