最新版方法論とベンチマーキング

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって2018年10月に公表された「1.5℃ 特別報告書」は、気候変動に対処する緊急性とその取り組みを促進するために政府が担うべき役割を明示している。だが、エネルギー転換を加速するための意義ある政策の導入に向けた国際的な取り組みは遅れている。この理由としては、既得権益を持つ企業による働きかけが重要な役割を担っていると広く理解されている。

気候変動を研究するIPCCや国連気候変動枠組条約の専門家900人超を対象にした2020年の聞き取り調査で、北米、欧州、およびオセアニアの専門家は揃って、SIG(テーマ別普及・研究部会)による反対が気候変動緩和への取り組みを妨げる最大の障害であると見ていることが明らかになった 2 。ここ10年、企業による気候変動政策への働きかけがメディアを賑わせており、例えば米国では2015年から2016年に相次いだ業界団体による訴訟がクリーンパワープランを中止に追い込み、また2014年にはオーストラリアにおいて炭素税 が廃止された。

企業による働きかけが気候変動政策に与える影響の重大性は、2015年にインフルエンスマップが発足する前からさまざまな研究によって指摘されてきた。その例を以下に挙げる。

▪ ハーバード・ビジネス・スクールによる2011年の報告書は、気候変動アジェンダへの企業の影響を広範に測定するには、気候変動政策に企業が及ぼす影響を考慮する必要があると主張している3

▪ 憂慮する科学者同盟(Union of Concerned Scientists)が2012年および2014年に行った研究は、米国の気候変動政策の実施を妨害する米国企業4 および経済・業界団体5 の役割を浮き彫りにした。

▪ ウェストミンスター大学6 による2015年の研究は、EUの主要な経済・業界団体が欧州における気候変動政策の進展を妨げる主因になっていることを明らかにした。

気候変動政策アジェンダに影響を及ぼすために企業が用いているさまざまな戦略や手段を定義・分類するなど、この問題を異なる角度からさらに分析した学術論文も見られる7 。その他にも、特定の業界団体あるいは企業によるロビー活動がもたらした影響の評価を主軸とする研究がなされている8

インフルエンスマップは、気候変動政策への関与・働きかけという観点から企業および経済・業界団体を系統立てて分析し、評価・採点するための手法の開発を手がけきた。その目的は、企業レベルで気候変動政策への関与・働きかけを詳細にわたって評価することにある。インフルエンスマップのプラットフォームには、世界の大企業300社近くの分析結果が公開されており、気候変動政策への企業の関与・働きかけを取り巻く環境をより大局的に捉えることができる。

これは、世界規模の機関投資家コミュニティに対して、企業が気候変動に与える影響にまつわる情報を提供するものである。インフルエンスマップは、総額40兆ドルに及ぶ資産を保有する450の機関投資家からなる「クライメート・アクション100+(ClimateAction 100+:CA100+)プロセスのテクニカル・アドバイザリー・グループ(TAG)の一員である。その分析は、金融・ビジネス関連の媒体をはじめとする1,500以上ものメディアに取り上げられている。

本書は、ユーザーとステークホルダー(利害関係者)向けに、企業および業界・経済団体を気候変動政策への関与・働きかけという観点から評価するインフルエンスマップの最新版の方法論を要約するものである。インフルエンスマップの方法論は、企業評価の重要な要素である客観性、透明性、論旨明快、使いやすさを徹底するものであり、セクター別だけでなく、複数のセクターにまたがる類似企業比較を可能にしている。

そのプロセスを以下に要約する。

2 Kornek, U., et.al (2020). What is important for achieving 2°C? UNFCCC and IPCC expert perceptions on obstacles and response options for climate change mitigation, Environmental Research Letters, Vol 5, No2.

3 Schendler, A. and Toffel, M (2011) What Environmental Ratings Miss.

4 Union of Concerned Scientists (2012) How Corporations Have Influenced the U.S. Dialogue on Climate Science and Policy.

5 Union of Concerned Scientists (2014) Tricks of the Trade: How Companies Anonymously Influence Climate Policy Through Their Business and Industry associations.

6 Fagan-Watson, B., Elliott, B. and Watson, T. (2015) Policy engagement by Industry associations on EU Climate Policy. London University of Westminster.

7 For example; Nyberg, D., Spicer, A., & Wright, C. (2013). Incorporating citizens: corporate political engagement with climate change in Australia. Organization, 20(3), 433-453; Cambridge, MA: MIT Press.; Downie, C. (2017a). Business actors, political resistance, and strategies for policymakers. Energy Policy, 108, 583-592; Skodvin, T., Gullberg, A. T., & Aakre, S. (2010). Target-group influence and political feasibility: the case of climate policy design in Europe. Journal of European Public Policy, 17(6), 854-873.

8 Grasso, M. (2019). Oily politics: A critical assessment of the oil and gas industry’s contribution to climate change. Energy Research & Social Science, 50, 106-115. doi:https://doi.org/10.1016/j.erss.2018.11.017; Sühlsen, K., & Hisschemöller, M. (2014). Lobbying the ‘Energiewende’. Assessing the effectiveness of strategies to promote the renewable energy business in Germany. Energy Policy, 69, 316-325. doi:https://doi.org/10.1016/j.enpol.2014.02.018.

インフルエンスマップの目的と役割

一般に公開されているエビデンスの精査を通じて、気候変動政策への関与・働きかけという観点から企業を独立的かつ客観的に評価、採点、ランク付けすること。

定義&評価基準、評価プロセス、結果

定義&評価基準

評価プロセス

結果

Definitions & Criteria

  • 政策への関与・働きかけの定義
  • 信頼できる公開データソース(データ源)の選定
  • 気候変動政策の定義・分類
  • 採点対象となる母集団(ユニバース)の選定
  • 投資家の期待
  • 気候変動政策ベンチマーク

Assessment Process

  • マトリクス表をもとにしたデータ・プラットフォーム
  • 採点システム
  • 経済・業界団体との繋がりの評価
  • 重み付け&アルゴリズム

Outputs

  • メトリクス(測定指標)
  • 企業・団体毎の分析表
  • 採点結果の詳細および評価に用いた資料
  • 投資家向け短信
  • テーマ別報告書

外部監督

ステークホルダーおよび諮問グループによる方法論の評価・展開

表1:気候変動政策への関与・働きかけという観点から、企業および経済・業界団体を評価するインフルエンスマップの方法論。

諮問グループについて

方法論を展開するにあたり、諮問グループの一員として以下の方々にご指導、お力添えいただいた。ここに謝意を表したい。

  • レイチェル・ワード氏(気候変動に関する機関投資家グループ(IIGCC)ポリシー・ディレクター)

  • ビル・ワイル氏(クライメート・ボイス ディレクター、元フェイスブック サステナビリティ・ディレクター)

  • 松尾雄介氏(地球環境戦略研究機関(IGES))

  • ポール・ディキンソン氏(CDP創設者&役員)

  • ダニエル・アバシ氏(ダグラス・ウィンスロップ・アドバイザーズLLC マネージング・ディレクター)

  • コリン・メルビン氏(アルカディコ・パートナーズ マネージング・パートナー)

  • アリス・ガートン氏(ファイル財団 戦略ディレクター)

‐ 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって2018年10月に公表された「1.5℃ 特別報告書」は、気候変動に対処する緊急性とその取り組みを促進するために政府が担うべき役割を明示している。だが、エネルギー転換を加速するための意義ある政策の導入に向けた国際的な取り組みは遅れている。この隔たりの主な原因は、既得権益を持つ企業による反対にある。

‐ インフルエンスマップは、気候変動政策への関与・働きかけという観点から企業および経済・業界団体を分析し、評価・採点する世界有数のプラットフォームを運営している。その分析は、世界規模の機関投資家コミュニティに対して、企業が気候変動に与える影響に関する情報を提供している。

‐ 本書は、ユーザーとステークホルダー(利害関係者)向けに、企業および業界・経済団体を、気候変動政策への関与・働きかけという観点から評価する、インフルエンスマップの最新版の方法論を要約するものである。

‐ 本方法論は、企業評価の重要な要素である客観性、透明性、論旨明快、使いやすさを徹底するものであり、セクター別だけでなく、複数のセクターにまたがる類似企業比較を可能にしている。本システムは、採点プロセスにおいて、常に同一の結果が出るように設定されている。 ‐ 本方法論は、パリ協定を実施する義務のある政府機関により現在実施されている、策定中、あるいは将来に施行される可能性のある気候変動政策や規制などの「外部ベンチマーク(基準)」を用いて、気候変動政策への企業の関与・働きかけを評価するものである。

‐ それには、政策策定に関連する、もしくは影響を及ぼす可能性のある事柄に関するIPCCの科学的知見を強調する主要ベンチマークも含まれる。インフルエンスマップは、それらを「科学的分析に基づく政策(Science Based Policy:SBP)ベンチマーク」と称している。

‐ 気候変動政策への関与・働きかけを自己評価し、開示する企業が増える中、投資家の期待を提示する声明が公表されている1 。インフルエンスマップは、直接的・間接的な気候変動政策への関与・働きかけに関する企業の情報開示とガバナンス・プロセスをさらに掘り下げて評価するために、これらの声明書を用いている。

‐ SBPおよび投資家の期待をベンチマークとする企業パフォーマンス評価は、インフルエンスマップ・システムの新要素であり、現在、展開中である。2020年半ばの確定を目指し、同要素およびその他の評価プロセスの要素についてステークホルダーから意見を求めている。

2.1 エビデンスに基づく気候変動政策への企業の関与・働きかけ評価

インフルエンスマップは、気候変動政策の策定・実施に影響を及ぼす企業の活動を分析し、それをもとに企業を評価・採点し、ランク付けしている。そのプロセスは、すでに一般に公開されている情報源からデータポイントを系統立てて収集し、精査する作業を容易にするもので、分析対象となる企業に追加情報の開示や協力を求めることなく完結できる9

学術研究は、企業によるサステナビリティ報告書を通じた自主的な情報開示は、政策関与などのデリケートな問題に関わる企業活動の上辺だけを提示するもので、誤解を招く場合が多いと指摘している10 。インフルエンスマップは、気候変動政策への企業の関与・働きかけをさらに掘り下げて分析するために、明確に定められた条件を満たす一般に入手可能なデータ源を用いている。データ源の選別においては、(1)パブリック・ドメイン(公有)であり、(2)名目上は採点対象となる母集団(ユニバース)すべてに適用されるものであり、(3)企業の活動と行動を的確に反映していることを条件にしている。

インフルエンスマップによる企業の分析は、こうした企業行動を統計的に反映するデータ源から得られた何百ものエビデンスの精査・採点結果に依拠するものであり、企業が表向きに発信しているメッセージよりもはるかに的確に企業行動を反映している。本システムは、客観的かつ透明性のある分析結果とメトリクス(測定指標)を導き出すもので、それにより評価される企業および経済・業界団体間における類似比較を可能にしている。本分析は以下の2点を提供する。

  • 気候変動政策に対する企業行動の全体像(経時的な変化や是正の追跡を含む)。
  • 主要な動向や関心事項、進展状況を把握し、より大局的に企業および業界による気候変動政策への関与・働きかけを取り巻く状況を捉えるために必要な洞察。 インフルエンスマップは本研究の限界を認識しており、今後、以下の点でさらに掘り下げる必要性があると考える。
  • 特定の政策に対して個々の企業あるいは経済・業界団体が与える影響の検証。
  • 同分野におけるベスト・プラクティスの分析を含め、気候変動政策への関与・働きかけを規定する企業内の意思決定プロセスおよびプラクティスにおけるより深い理解。

2.2 国際的に認められたベンチマークと評価基準に基づく方法論

インフルエンスマップは、パリ協定を実施する義務のある政府機関により現在実施されている、策定中、あるいは将来に施行される可能性のある気候変動政策や規制を精査している。ここでいう「気候変動政策への企業の関与・働きかけ」とは、国連グローバル・コンパクトによる「Guide for Responsible Corporate Engagement in Climate Policy(企業による責任ある気候変動政策への関与ガイド)」が関与として定義するさまざまな企業活動を指す。

インフルエンスマップの採点プロセスは、政策に対して中立的な立場をとっている。それは、パリ協定に沿った各国政府の気候変動政策そのものの良し悪しを判断するものではなく、政策に対する企業や経済・業界団体のスタンスを評価するものである。政府機関の政策方針および目標を「パリ協定と整合するベンチマーク(基準)」として、政策への企業の関与・働きかけを評価している。

また、この方法論は、政策策定に関連する、もしくは影響を及ぼす可能性のある事柄に関するIPCCの科学的知見を強調するベンチマークも含んでいる。インフルエンスマップは、それらを「科学的分析に基づく政策(Science Based Policy:SBP)ベンチマーク」と称している。なお、ベンチマーキング・プロセスについては、付属資料A にて詳述している。

9 InfluenceMap has however engaged with over 100 large corporations and industry groups and detailed feedback methods existing within the InfluenceMap.org portal for submission of comments on the scoring.

10 Cho, C. H., Laine, M., Roberts, R. W., & Rodrigue, M. (2018). The Frontstage and Backstage of Corporate Sustainability Reporting: Evidence from the Arctic National Wildlife Refuge Bill. Journal of Business Ethics, 152 (3), 865-886. doi:10.1007/s10551-016-3375-4

客観性と信頼性、比較可能性の基準を定めることで、インフルエンスマップは評価プロセスから主観、気候変動アドボカシー、および政治的な立場を切り離すように努めている。本システムは、採点プロセスにおいて、常に同一の結果が出るようにデザインされている。

2.3 企業が開示する気候変動政策への関与・働きかけの正確性を検証

気候変動政策への企業の関与・働きかけの問題をめぐり「投資家の期待」が機関投資家や投資家グループによって提示される中、より精度の高い情報開示が投資家コミュニティによる要請の主眼となっている。インフルエンスマップは、評価基準として投資家の期待を用いることにより、気候変動政策への関与・働きかけに関する企業による直接的な情報開示の頑健性(ロバストネス)への洞察を提供している。

本章では、分析プロセスの主要パラメーターを定義するために、前章で紹介したアイデアや概念を発展させることとする。

3.1 気候変動政策への企業の関与・働きかけの定義

気候変動政策への企業の関与・働きかけは、「ロビー活動」や「アドボカシー(提唱)」、「政治活動」などといった文脈によって異なる意味合いを持つ言葉と関連づけることができる。「気候変動政策への企業の関与・働きかけ」を定義するうえで考慮すべき重要な概念として、以下の2つが挙げられる。

  • 内部vs外部:学術論文は、政策策定に影響を及ぼすために企業が用いているさまざまな手法に着目している11 。ここで言う「内部」とは、政策決定者(政策当局者や政治家など)との対話を通じた政策への働きかけを指す。一方、「外部」とは、特定の政策や政治方針を導き出すための手段として、世論に働きかけることに的を絞った手法のことを指す。

  • 直接的vs間接的:これは気候変動政策への働きかけの実行者によって区別するものである。「直接的」とは、企業自身によって気候変動政策への働きかけが行われていることを指す。「間接的」とは、企業に代わって、業界団体やシンクタンク、PR会社などの第三者団体によって気候変動政策への働きかけが行われていることを指す。直接的、間接的な気候変動政策への働きかけはいずれも、「内部」ないし「外部」の手法を利用することがあり得る。

混乱を避けるために、インフルエンスマップは、2013年に国連グローバル・コンパクトの「Caring for Climate」イニシアティブのもと、国連気候変動枠組条約事務局および国連環境計画(UNEP)によって公表された「Guide for Responsible Corporate Engagement in Climate Policy (企業による責任ある気候変動政策への関与ガイド)」に基づき定義している。同ガイドは、内部、外部、直接的、間接的な手法を含め、気候変動政策への企業の関与・働きかけと見なされるさまざまな企業活動を定義するものである。そうした活動には、広告宣伝、ソーシャルメディア、広報、研究機関への資金提供、規制当局や議員との直接の接触、選挙運動や政党への献金、政策諮問委員会への参加などがある。これらは通常、企業内の規制関連業務担当部署と連携して行われるが、広報、コミュニケーション、またはマーケティング・広告部に任せている場合もある。インフルエンスマップは、気候変動政策や規制に関連する企業活動の内容・成果が一般に公開されるにつき、その情報を収集している。

3.2 データ源の選定

インフルエンスマップの方法論は、気候変動政策への企業の関与・働きかけのエビデンスに着目し、それらを各国政府による政策ベンチマークおよび科学的分析に基づく政策(SBP)ベンチマークを用いて評価・採点するものである。データ源の選別においては、(1)パブリック・ドメイン(公有)であり、(2)名目上は採点対象となる企業すべてに適用されるものであり、(3)企業の活動と行動を的確に反映しているものを条件にしている。これらのデータ源の大部分は、すべての大企業、そしてCDPと財務情報の開示を除けば、すべての大規模な経済・業界団体に該当し、一般に入手・利用できる。本方法論は、データ源を以下のように分類する。

11 For example; Brulle, R. J. (2018). The climate lobby: a sectoral analysis of lobbying spending on climate change in the USA, 2000 to 2016. Climatic Change, 149(3), 289-303; Layzer, J. A. (2007). Deep freeze: How business has shaped the global warming debate in Congress. In M. E. Kraft & S. Kamieniecki (Eds.), Business and Environmental Policy: Corporate Interests in the American Political System (pp. 93-126). Cambridge, MA: MIT Press.

D1: 企業ウェブサイト

企業のメインサイト、および子会社のウェブサイト

D2: 企業メディア

ソーシャルメディアなど、企業によって管理されているメディア

D3: CDP情報開示

CDP情報開示システム(12.3 a & 12.3c)内の気候変動政策への関与・働きかけに関する質問への回答

D4: 政策・規制への助言

インフルエンスマップが情報の自由(Freedom of Information:FOI)に基づく情報公開請求を通じて得たものを含む、政策・規制への助言

D5: 信頼のおけるメディア

知名度のある確立されたメディアによる、気候変動政策への企業の関与・働きかけに関する報道記事

D6: 経営陣による発言

さまざまな状況下における企業の重役による発言

D7: 財務情報開示

企業が金融規制当局に提出した書類

D8: 広告(*分類に新たに追加予定)

インフルエンスマップは、企業による気候変動に関する有料広告(フェイスブック広告、記事広告など)の活用を分析・評価するために、新たなデータ源の追加を検討している。

表2:気候変動政策への企業の関与・働きかけを明確化するためにインフルエンスマップが用いているデータ源の一覧。

これらのデータ源は、上に概説した気候変動政策への企業の関与・働きかけのさまざまな側面を明確化するものである。例えば、政策・規制への助言(D4)は、特定の「内部」ロビー活動をとらえるもので、企業や経済・業界団体が政策に対する見解を伝え、望む成果を引き出すうえで欠かせない手段である。これらの発言は一般に公開されており、例えば、米国連邦政府レベルではregulations.gov にて閲覧できる。インフルエンスマップは、その他の情報を入手するために情報公開請求を積極的に活用している。

さまざまな状況下における経営陣による発言(D6)のエビデンスは、影響力のある主要人物に向けた意思表明を通じて政策を左右しようと試みている可能性があることを示すものである。ソーシャルメディアの利用(D2)とソーシャルメディア上で展開される有料のターゲティング広告(*新分類*D8)は、企業および所属の経済・業界団体にとって、気候変動に対する一般市民の認識や解釈に働きかける非常に重要な「外部」ロビー手段となっている。

インフルエンスマップのシステムは、主要な気候変動政策ベンチマークに関するデータ源間の矛盾をとらえるものである。図3が示すように、一般に公開されているデータ源では、気候変動政策への企業の関与・働きかけの全容が明らかになっていない可能性を考慮している。

図1:企業セクターにおける既知・未知のロビー活動を氷山にたとえたもの。

インフルエンスマップのシステムは、プライベートな会合や金銭の流れ(やり取り)などの活動に関する水面下の未開示の情報を反映していないが、利用可能なデータポイントに基づき、企業および経済・業界団体の行動に関して信頼できる評価結果を提供している。

3.3 気候変動政策の定義と分類

国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のプロセス(IPCCのガイダンスなど)は、規制当局による気候変動対応策としての政策・規制の立案〜決定プロセスを促進する引き金となった。パリ協定のもと、締約国は、同協定の目標を達成するための国別の取り組みを概説するNDC(国が決定する貢献)の作成・提出が求められている。インフルエンスマップのシステムは、パリ協定を実施する義務のある政府機関によって現在実施されている、策定中、あるいは将来に施行される可能性のある気候変動政策や規制を考慮に入れている。ここで言う「パリ協定実施機関」とは、各国・地域においてNDCの実施を託されている、さまざまなレベルの政府機関または政府認定機関を指す。

気候変動課題の小分類(質疑)

説明

Q1: 気候変動科学の認識

気候変動に関する科学および情報を正確に認識しているか

Q2: 気候変動に対する対応

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の推進に基づく対応への支持度

Q3: Need for Climate Regulation

Support for regulations to tackle climate change in general.

Q4: The Paris Agreement

Support for the UN Treaty on Climate Change.

Q5: 気候変動政策に対する見解の明確度

気候変動政策に対する組織の意見・見解の透明度および明確さ

Q6: 炭素税への見解

気候変動対策としての炭素税への支持度

Q7: 排出権取引への見解

気候変動対策としての排出権取引への支持度

Q8: エネルギー効率基準法への見解

気候変動対策としてのエネルギー効率基準法への支持度

Q9: 再生可能エネルギー法への見解

気候変動対策としての再生可能エネルギー法への支持度

Q10: エネルギー政策への見解

IPCCの推進に沿ったエネルギー政策およびエネルギーミックスへの支持度

Q11: 温室効果ガス排出基準への見解

温室効果ガス排出量削減基準法への支持度

Q12: 関係・関与性における情報開示

外部団体(業界団体等)との関係・関与性についての情報開示の透明度・明確さ

表3:インフルエンスマップが調査項目として細分化した気候変動政策への関与アジェンダの小分類。

これらの施策には、目標の設定、基準の導入、財政的介入、その他の拘束力のある規制要件など、詳細を規定する施策策定に向けて国家レベルで表明されている取り組みも含まれる。また、気候変動に関する考慮事項は、建築基準法や土地利用規制、財政規則などといった気候変動関連以外の政策にますます影響を与えている。これらの政策の中で気候変動に関連するものは、インフルエンスマップの定義する「気候変動政策」に該当する。

インフルエンスマップは、気候変動政策への関与アジェンダを「調査項目(Q1〜Q12)」と称する小分類へと細分化している。これらの調査項目に対応するエビデンスの収集と分析は、気候変動政策アジェンダへの企業の関わりの全容を明らかにするものである。

Q1〜Q4およびQ6〜Q11は、企業による気候変動政策への実際の関与を把握するものである。Q1〜Q4は国家レベル(高位)の気候変動政策の課題に関わる一方で、Q6〜Q11は地方レベルで検討されている可能性のある法案や規制に関するものとなっている。例えば、Q6の炭素税項目は、世界各国の炭素税に係る措置への企業の関与・働きかけをアーカイブするものである。気候変動政策への関与・働きかけに関する企業ガバナンスと情報開示の明確性、正確性、範囲を評価するには、それに加えてQ5とQ12の2つの調査項目が用いられることになる。これらの調査項目は、前述した投資家の期待をベンチマークとして比較・評価される。

3.4 気候変動政策への企業の関与・働きかけに対する投資家の期待

投資家は現在、ポートフォリオ内で保有する企業による後ろ向きな気候変動政策への働きかけについて大きな懸念を示している。その懸念の矛先は、企業自身による働きかけだけでなく、各国それぞれの管轄区にて企業を代弁する業界団体などによる働きかけにも向けられている。こうした中、政策関与のガバナンス改善を企業の経営陣に求める株主の圧力がますます強まっている。これらの投資家の多くは“セクターを超えた”長期保有の株主であり、気候変動政策の遂行の遅れが続くことにより、より広範にわたる経済影響を懸念している。また、気候変動政策への企業の関与・働きかけに関する透明性の欠如がエネルギー転換に向けた企業の取り組み計画・戦略を曖昧にし、多様なタイム・ホライズン(想定投資期間の長さ)を伴う投資家を規制にまつわるリスクに晒しているのではないかと懸念される。気候変動政策への関与・働きかけをテーマとして企業とエンゲージ(建設的な対話)することは、現在、総額40兆ドルに及ぶ資産を保有する450にのぼる機関投資家を束ねるイニシアティブ「クライメート・アクション100+ (ClimateAction100+)プロセス」の枠組みにおける戦略的要素になっている。今後は、企業セクター(セクター別の問題)をテーマとするエンゲージメントが行われるものと見られる。

欧州の気候変動に関する機関投資家グループ(IIGCC)国連責任投資原則(PRI)ネットワーク はそれぞれに、企業に向けて、気候変動政策への関与・働きかけプロセスの管理に関する期待事項を提示している。

これらの文書は、概して以下の点を企業に求めている。 - パリ協定と整合する政策:パリ協定に沿った気候変動政策を支持する立場をとり、それに応じて気候変動政策や規制に働きかける。

  • ガバナンス:取締役会による監督や、気候変動政策への働きかけおよび経済・業界団体との繋がり(関係)の監査、企業が掲げる気候変動対策目標と政策関与との整合性の確保など、気候変動政策への関与・働きかけのガバナンスを徹底する。

  • 見解のズレ:業界団体との方向性のズレなど、政策関与と企業の目標との間にズレが生じた場合には、透明性をもって適宜是正する。

  • 情報開示:気候変動政策、政策関与、経済・業界団体との関係、見解のズレ、および是正措置・計画に関して、完全な透明性を確保する。

こうした投資家からの圧力を受けて、昨今には、より多くの企業が気候変動政策への関与・働きかけを自己評価し、開示した。インフルエンスマップは、投資家の期待に基づき、そうした企業による情報開示の頑健性(ロバストネス)を見極めている。その評価方法の詳細については、付属資料Bを参照されたい。現在、欧州では、投資家から得た企業の気候変動ロビー活動に関するさまざまな意見を束ね、正式なベスト・プラクティスの枠組みを構築するために、投資家の支持のもと新たな研究・コンサルテーションプロセスが進行している。インフルエンスマップは、この件について投資家のコンセンサスが進展するに従い、方法論を引き続き見直していく予定である。

3.5 採点対象となる母集団(ユニバース)の選定

2020年6月時点で、インフルエンスマップは、気候変動政策への関与・働きかけという観点からおよそ250社の企業および100団体の主要な経済・業界団体を評価し、同時に企業と団体との繋がり(関係)に関する分析も実施している。また、評価を行うにあたって、あらかじめ企業・団体毎に大もとの母集団(population)を選定し、類似比較を不可能にする「チェリー・ピッキング(有利なデータのみを選り好みすること)」を避けるようにしている。

本システムは、経営・販売規模や政治的影響力に関連するさまざまな指標を総合してランク付けする、フォーブス・グローバル2000リスト上の大企業を優先的に評価している。例えば、MSCIワールド・インデックスだけでも1,600社以上の企業があり、すべての企業母集団(ユニバース)を評価することは、現時点では不可能である。なお、採点の結果とユーザーのニーズに基づき、石油、ガス、石炭、電力、運輸、航空、自動車、エネルギー集約型製造業といった気候変動政策に最も深く関与しているセクター内の企業も評価対象に含めている。また、インフルエンスマップは、特定の地域またはセクターにおける主要企業を経営・販売規模を第一基準として慎重に選定し、採点するなど、より限定的な企業集団をベースとする評価も行っている。

前述したように、学術論文は、「企業による直接的および間接的な気候変動政策への関与・働きかけ」の役割を浮き彫りにしている。それに加え、インフルエンスマップのユーザーにとっては、経済・業界団体をはじめとする「気候変動政策への関与プロセスにおける企業の代弁者」の役割もまた重要な問題となっている。

インフルエンスマップは、第三者団体を通じた企業の働きかけについても可能な限りとらえるようにしている。以下のような理由から、本分析は現在、経済・業界団体の役割を重視している。

インフルエンスマップの分析は、企業レベルでの関与・働きかけに焦点を絞るもので、企業との関係が正確かつ一貫性をもって分析できる場合にのみ、第三者団体を考慮に入れるようにしている。ほとんどの経済・業界団体がこれに当てはまるが、政策関与のプロであるコンサルタントやシンクタンクを通じた活動は水面下で行われ、開示が限られている場合が多いため、その分析には限界がある。

  • 経済・業界団体は、セクター全体、あるいは場合によってはビジネス界全体の代弁者として、政策への働きかけを行っている。それだけに、これらの団体の持つ影響力は強力で、活動を行う地域における気候変動政策法案の可決を左右する。インフルエンスマップの分析 は、これらの団体は概してパリ協定に反対の立場を示しており、そのため政策の実施を妨げる大きな障害の一つとなっていることを明らかにしている。

評価対象となる経済・業界団体の母集団(ユニバース)の選定において、以下の基準を用いている。

  • 経済・業界団体の「相対的なランキング」は、米国、欧州、日本などといった国・地域レベル、あるいは国際レベルでの影響力を評価するものである。評価にあたり、団体の規模、および当該団体が代弁する企業あるいはセクターの規模・重要性を考慮している。この評価プロセスでは、国・地域の情勢や団体の政治的影響力に精通しているビジネス関係者や政策当局者、市民団体などに聞き取り調査を行い、意見を集約している。

  • 「国・地域の重要度」は、国・地域の経済規模と、世界の温室効果ガス排出量および化石燃料輸出量に対する当該団体の拠点国・地域の寄与度を考慮するものである。

インフルエンスマップのシステム上では、およそ100団体におよぶ経済・業界団体の情報が更新されており、また、これらの点を踏まえて新たに選定された団体が加えられる。

インフルエンスマップは、経済・業界団体やビジネス連合などに代表される企業の利益を代弁する団体を「インフルエンサー」と称している。本カテゴリーは、今後、データ収集テクニックおよび情報開示制度が向上し、その他の種類の政策関与団体と企業との繋がりを正確かつ一貫性をもって分析できるようになった時点で拡張する予定である。

4.1 マトリクス表をもとにしたプラットフォーム

本章では、評価プロセスの実施方法について解説する。 インフルエンスマップはPDFファイルや文書化された発言(コメント)、外部ウェブサイトへのリンクなどの膨大な量のデータを収集、評価・採点、アーカイブしている。2020年4月時点では、オンライン・システム上に20万点を超えるエビデンスがアーカイブされている。MySQLデータベース・システムをもとにカスタムメイドで開発されたソフトウェアは、オペレーター向けのコンテンツ管理システム(Content Management System:CMS)ならびに評価結果が一目でわかる一般ユーザーにとって使いやすい画面レイアウトを備えている。 図2は、Unilever(ユニリーバ)の分析表をCMS画面およびユーザー向け画面の一例として提示したものである。評価ソフトウェアのマトリクス図表は、大量のデータを効率よくアーカイブし、わかりやすく伝えるものである。

一般ユーザー向けの画面

ユニリーバ分析表画面

図2:インフルエンスマップのウェブサイト上で見る、ユニリーバの分析表の一般ユーザー向け画面とCMS画面。

一般ユーザー向けの画面では、マトリクス表中の一番左の列に、インフルエンスマップの調査項目に分類した気候変動アジェンダが表示され、一番上の行にデータ源が列挙されている。表中のスコアには、アーカイブされたエビデンスへのハイパーリンクが挿入されており、階層的に整理されたデータにアクセスできる。「インフルエンスマップ採点の要旨」は企業のスコアについて解説するもので、画面の左上に表示された「インフルエンスマップ・スコア」には総合結果が記されている。

このマトリクス構造と階層的に整理されたデータは、柔軟かつ拡張可能なプラットフォームの構築を可能にし、幅広い層のユーザーに明確に情報が伝わるようになっている。

4.2 採点システム

図3は、アメリカ石油協会(American Petroleum Institute) の分析表をインフルエンスマップの採点マトリクス表の一例として提示している。

図3:インフルエンスマップの採点マトリクス表の一例。ここではアメリカ石油協会の分析表を用いている。

マトリクス表の各枠は、該当する調査項目に関連するデータ源から収集した、気候変動政策への企業の関与・働きかけのエビデンスにリンクづけされている。それぞれの枠は、最大10〜20点のエビデンスを有している。

インフルエンスマップによる企業・団体の分析は、組織行動を統計的に反映するデータ源から得た何百点ものエビデンスの評価・採点結果に依拠していることから、企業・団体が表向きに発信するメッセージよりも気候変動政策に関する見解をはるかに正確に捉えている。

各エビデンスは、関連する気候変動政策に対する企業の支持度または反対・阻害度を決定するために、インフルエンスマップ・チームによって分析される。その際、客観性と一貫性が損なわれることのないように、厳格なベンチマークの枠組みに沿って評価が行われている(政策ベンチマークを用いた評価・採点例については、付属資料Aを参照)。また、本システムは、日時や地域、特定の法案などの情報を含有する各エビデンスに関連するデータ・ポイントもとらえている。

図4は、アメリカ石油協会のマトリクス表中の枠のリンク先を示している。枠毎に、保有するエビデンスをもとに算出されたスコアがつけられており、それはエビデンスの日時や重要性などといった要素も考慮したものとなっている。一般ユーザーは画面上で各枠をクリックすることによって、こうしたリンク先の情報にアクセスできる。

図4:一般ユーザー向けの画面で見るアメリカ石油協会のマトリクス表中の枠のリンク先。

エビデンスへのウェブリンクは画面の左下に提供されている。リンク先のページが削除される場合を想定し、各エビデンスは日付表示(タイムスタンプ)されたPDF形式でも保存され、閲覧できるようになっている。「データ源からの抜粋」は、インフルエンスマップが評価・採点するエビデンスの原文の一部をそのまま引用したものであり、「インフルエンスマップ・コメント」にはアナリストによるコメントが記されている。

図5:CMS画面上で、アメリカ石油協会の分析表の枠にリンクづけられた中間タグと中間指標を表示したもの。

オペレーター用のCMS画面に切り替えることで、マトリクス表中の枠にリンクづけられたさまざまなタグとインフルエンスマップが最終(上位)指標を算出するために用いる「中間指標」を見ることができる。

そのプロセスによって、次のような中間タグおよび中間指標が記録される。

  • 「スコア」は、エビデンスをインフルエンスマップのベンチマークに照らして、評価するものである。+2から−2の5つ数値で表示され、+2から順に、当該政策に対して「強く支持」、「支持」、「中庸・不透明な立場」、「不支持」、「反対」となる。実際の採点例については、付属資料Bを参照されたい。

  • 「重要度」は、当該エビデンスの重要度を、枠内のその他のエビデンスと比較し、0〜10のスケールで評価するものである。

  • 「旗印」は、エビデンスがとりわけ前向きまたは後ろ向きな立場を示しており、その重要度が非常に高いことを示すものである。一般ユーザー画面では、これらは枠を赤(後ろ向き)ないし青(前向き)で色付けする形で反映される。(図3のアメリカ石油協会のマトリクス表では、3つの枠が赤色で塗りつぶされている。)

  • 「地域、法律、年度」の3つのタグは、経時的な変化に着目し、地域や政策について深く掘り下げるなど、データセットをさまざまな角度から分析できるようにしたものである。

  • 「枠スコア」は、当該枠にリンクづけられたエビデンスを個々に評価して得られたスコア、重要度、および年度をもとに算出された中間指標である。本システムでは、古いエビデンスは軽視され、過去2年以内のエビデンスが現在の枠スコアに寄与することになる。スコアに寄与しない古いエビデンスも関連資料としてアーカイブされている。

インフルエンスマップのシステムは、膨大な量のデータを企業セクター全体で利用可能なアーカイブ資料、チームによるコメント、タグ、測定指標などの形式で含有している。企業および経済・業界団体毎に意義ある最終指標を導き出し、評価を行うためにはこのレベルの複雑さが必要となる。本システムがこれらの最終指標に到達するプロセスでは、完全な透明性が確保されている。

4.3 経済・業界団体との繋がりの評価

インフルエンスマップのデータベース上では、100を超える経済・業界団体、ビジネス連合、ならびにアドボカシー・グループ(本システムでは総称して「インフルエンサー」という)が企業と同じ手法で評価・採点されている。インフルエンスマップのシステムの特徴は、企業とインフルエンサーとの繋がりを直接開示された情報をもとに分析することにある。図6は、エクソンモービルの分析表の「関係スコアの詳細」情報を表示している。

図6:「関係スコアの詳細」画面。例として、エクソンモービルの分析表を用いている。

これは、データベース上で企業と主要な経済・業界団体との関係を分析した結果を示すものである。本データベースは、インフルエンスマップによって随時アップデートされている。企業毎の最終指標は、企業自身による政策への働きかけを評価する「企業の組織スコア」と「企業が所属する団体の組織スコアを合算した関係スコア」に基づき算出されたものである。そうすることで、企業と団体との間にある見解のズレがはっきりと見てとれる。「関係スコア」の微妙な差違を捉えるために、インフルエンスマップは企業と団体の繋がりに関連する以下の2つの中間指標を用いている。

  • 企業と経済・業界団体との「関係の強さ」は、1〜10のスケールで表され、数値が大きくなるほど強くなる。一貫性をもって評価するために、インフルエンスマップは多様な関係の評価方法を事細かに記したガイドラインを設けている。

  • 経済・業界団体の「相対的なランキング」は、米国や欧州、日本などの国・地域レベル、あるいは国際レベルでの影響力を0〜10スケールで評価するものである。評価にあたり、団体の規模、および当該団体が代弁する企業あるいはセクターの規模・重要性を考慮している。これは、当該国・地域の情勢や団体の政治的影響力に精通しているビジネス関係者や政策当局者、市民団体などに聞き取り調査を行い、意見を取りまとめることによって判断している。

完全な透明性を確保するために、図7が示すように企業の分析表の画面上にボックスを組み込み、企業が関係を持つ経済・業界団体毎に算出された「関係スコア」とその概説を一般ユーザーが手軽に見られるようにしている。

図7:エクソンモービルの分析表の画面上に表示されるライトボックス。同社が関係を持つ経済・業界団体毎に算出された「関係スコア」について概説している。

4.4 重み付けとアルゴリズム

前節では、エビデンス、経済・業界団体、および企業と団体の繋がりの評価において、中間指標がどのように導き出されているかについて概説した。この透明性のあるシステムは、採点プロセスに誰が関わっても、常に同一の結果が出るようにデザインされている。最終指標を導き出すために用いられる主要な中間指標を以下に挙げる。

  • 企業と経済・業界団体のマトリクス表中の「枠スコア」
  • 企業と経済・業界団体との「関係の強さ」
  • 企業が関係を持つ経済・業界団体の「相対的なランキング」

マトリクス表中の枠に重み付けをすることによって、評価結果に、データ源と調査項目の相対的な重要性およびセクター間の差異を反映させている。例えば、自動車セクターについては、「Q11:温室効果ガス排出基準への見解」には自動車排出ガス基準が含まれていることから、同分類に対してより大きな重みが付けられる。

ステークホルダーや諮問グループとの意見交換に基づき、個々の枠に重み付けするためにアルゴリズムを用いている。最初にデータ源の重みが設定され、その後、自動的に調査項目の重みが設定される。下表にある「NS」は「採点なし」、「NA」は「適用なし」を意味する。「採点なし」は、当該枠に関するエビデンスが一つも見当たらなかった場合を指す。「適用なし」は、例えば業界団体がCDCや金融規制当局への情報開示を行っていない場合など、特定のデータ源が適用できない場合を指す。一つの枠に「NS」と「NA」の両方が当てはまる場合には、アルゴリズムによってその枠の重みは、当該調査項目の残りの枠に均等に再配分される仕組みになっている。それによって、常に合計が100%になるように重み付けできるため、情報の不足や非関連のデータ源が企業・団体の最終指標の結果に影響を与えることはない。

調査項目/データソース

D1

D2

D3

.................

D8

Q1

a%

b%

c%

.................

v%

subtotal %

Q2

d%

NS

f%

.................

x%

subtotal %

Q3

g%

h%

NA

.................

y%

subtotal %

..............

.................

.................

.................

.................

.................

.................

Q12

j%

k%

l%

.................

z%

subtotal %

subtotal %

subtotal %

subtotal %

.................

subtotal %

Total 100%

表4:この表は、採点マトリクス表中の重み付けを示すものである。

インフルエンスマップは、どの程度詳細な情報が必要とされるかはユーザーによって異なることを認識している。本システムは、そうした多様なニーズに一つのプラットフォームで対応できるよう設計されている。評価結果は、メトリクス(測定指標)や解説、投資家向け短信、テーマ別報告書といった形で提示されている。

5.1 メトリクス(測定指標)

表5は、本システムが企業あるいは経済・業界団体毎に算出する最終指標の一覧である。

メトリクス(測定指標)

算出方法

説明・含意

組織スコア(0〜100) 企業および団体の両方に適用。

枠スコアの加重平均を0〜100のスケールに正規化したもの。

付属資料Aに記されたベンチマークに照らして、企業または団体による気候変動政策への働きかけを評価するもの。75以上であれば支持を示し、50未満はゼロに近くなるほど強い反対を示す。

関与の度合い(0〜100) 企業および団体の両方に適用。

マトリクス表中に散在する数々のエビデンスを、各エビデンスがどれほどの関連性を持つか(エビデンスの年など)を示す主要指標に基づき重み付けしたもの。

それが前向き(支持)か後ろ向き(反対)かに関わらず、気候変動政策への働きかけの強度を表す。関与・働きかけの強度が12以上であれば積極的な働きかけを示し、25以上であればと非常に積極的あるいは戦略的な働きかけを示す。12未満は、気候変動政策への働きかけは比較的限定的であることを示す。

関係性スコア(0〜100) 企業のみに適用

企業が関係を持つ経済・業界団体の組織スコアの平均値に「関係の強さ」の重みを加味したもの。

企業が関係を持つ経済・業界団体による気候変動政策への働きかけを評価するもの。75以上であれば支持を示し、50未満はゼロに近くなるほど強い反対を示す。

パフォーマンス・バンド(A+からF) 企業のみに適用。

組織スコアと関与の度合いを合算し、インフルエンサーの数と各インフルエンサーの「相対的なランキング」の重みを加味したもの。

気候変動政策への企業の関与・働きかけの総合評価。企業自身による働きかけと、企業が関係を持つ経済・業界団体による働きかけの両方を考慮に入れ、A+からFのスケールで評価するもの(A+は支持を示し、Fは反対を示す)。

情報開示スコア − 政策関与に対するスタンス(0〜100)

詳細については付属資料Bを参照。

インフルエンスマップは、気候変動政策への関与・働きかけのガバナンスおよびパフォーマンスに関して、企業が開示している情報の質を評価している。

情報開示スコア − 経済・業界団体との関係(0〜100)企業のみに適用

詳細については付属資料Bを参照。

インフルエンスマップは、気候変動政策への関与・働きかけのガバナンスおよびパフォーマンスに関して、企業が開示している情報の質を評価している。

表5:インフルエンスマップのシステムが企業・団体毎に算出する最終指標。

図8は、「パフォーマンス・バンド」を0〜100のスケールに対応させ、色付けしたものであり、インフルエンスマップのポータルや出版物にて頻繁に用いられている。

図8:インフルエンスマップの企業の分析表は、このように色付けされた「パフォーマンス・バンド」のアイコンを表示している。

5.2 企業・団体毎の分析表、投資家向け短信、および報告書

前述のメトリクス(測定指標)を組み合わせることで、パリ協定と整合する気候変動政策に対する企業・団体の行動の全体像をより正確に捉えることができる。ユーザーは、インフルエンスマップのポータル内をナビゲートすることで、各企業・団体の評価の根拠を探ることができる。例えばユニリーバの分析表 が示すように、「組織スコア」と「関係スコア」を交互に見ることで全容がつかめ、エビデンスと合わせて、これらのメトリクス(測定指標)がどのように導き出されたのか理解できるようになっている。

インフルエンスマップは、投資家が企業あるいは経済・業界団体とエンゲージ(建設的な対話)するための資料として活用できるように、企業・団体毎に分析結果の要約およびより詳細な解説をまとめた短信を提供している。インフルエンスマップの情報を活用している機関投資家から、エンゲージメント活動を行ううえでこれらは特に役に立つという評価を得ている。要約については、各企業・団体の分析表ページ 上で見ることができ、採点マトリクス表のエビデンスへのハイパーリンクを含んでいる。

ユニリーバは、積極的にさまざまな気候変動関連の規制や政策を支持しているように見受けられる。

  • 前CEOのポール・ポルマン氏は、気候変動政策の支持者として有名であり、国連気候変動枠組条約の目標に対する支持を頻繁に表明している。

  • ポール・ポルマン氏は2017年に「Mission 20:20」 に署名し、石炭の段階的な廃止や電気自動車の導入の大幅増を含め、世界のエネルギーミックスの脱炭素化(エネルギー転換)に向けて至急行動を起こすよう呼びかけた。

  • 同年、ユニリーバは、米国で発足したクリーンエネルギーへの移行を加速するイニシアティブ「We Are Still In」 に参加した。

  • 同社は、イギリスカナダにおいて、エネルギー移行を促進するための施策を支持している。

  • 2017年にユニリーバは、欧州全域のエネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの割合を35%にするという高い目標値を支持 し、確実に目標を達成するために、政策当局者に対して「コーポレートPPA」を後押しする施策を支持するよう呼びかけた。

  • ユニリーバは、欧州排出量取引制度を含め、炭素の価格付け(カーボンプライシング)支持しているように見受けられる。

  • 2018年、ユニリーバは米国において提案された炭素税 に対する支持を表明したが、その一方で、米国クリーンパワープランなどの「効率的でない規制」は支持していないように見受けられた

  • 同年、ユニリーバは、欧州において重量車に対するより野心的なCO2排出削減目標を設けるよう呼びかけた

  • 2019年、ユニリーバの現CEOであるアラン・ジョープ氏は、同社が所属する経済・業界団体宛てに公開書簡を送り 、気候変動への取り組みに対する見解をユニリーバのそれと整合させ、パリ協定が定める1.5℃目標の達成を目指すことを確約するよう求めた。

インフルエンスマップは、一般ユーザー向けに企業および経済・業界団体の分析表(こちらを参照)を公開し、また図9に示されるようにそれらの分析結果をさらに評価したうえで、その要点をまとめ、投資向け短信として配信している。

図9:2018年後半に作成された、ダイムラーの分析表に関する投資家向け短信。

インフルエンスマップは定期的に、気候変動政策への関与・働きかけをテーマとしたセクター別・国別・政策別の報告書を発表している。これについては、ダウンロード可能な報告書の一覧と併せて、ウェブサイト上で詳しく解説 されている。

インフルエンスマップは、企業セクターの分析結果をわかりやすく示すために、図10のような散布図を用いている。横軸はFからA+までの「パフォーマンス・バンド」を示し、縦軸は気候変動政策への「関与・働きかけの強度」を示している。

図10:インフルエンスマップは、政策への「関与・働きかけの強度」と照らし合わせ、気候変動政策への支持度を測定するためにこの散布図を頻繁に活用している。

パフォーマンス・バンドがFに近く、関与・働きかけの強度が高い企業は、積極的に気候変動政策に反対しており、散布図の左上部に位置している。右上部の企業は、より野心的な気候変動政策を積極的に支持している。下部の企業は、中立的な立場をとっており、意義のある気候変動政策への働きかけという点ではほとんど活動を行っていない。

以下のリストは、本書ならびにインフルエンスマップのシステムで使用されている用語を定義するものである。用語はアルファベット順に並んでいる。

データ源 (Data Sources)

インフルエンスマップの方法論は、さまざまなデータ源の中から、気候変動政策への企業の関与・働きかけのエビデンスを抽出する。現在のところ、7つのデータ源を活用しており、「D1:企業ウェブサイト」、「D2:企業メディア(ソーシャルメディア)」、「D3:CDP情報開示」、「D4:政策・規制策定に関する助言」、「D5:信頼のおけるメディア」、「D6:経営陣による発言」、「D7:財務情報開示」がそれにあたる。

気候変動政策への企業の関与・働きかけ(Corporate Climate Policy Engagement)

2013年に国連は、気候変動政策への企業の関与・働きかけと見なされるさまざまな企業活動を定義する「Guide for Responsible Corporate Engagement in Climate Policy(企業による責任ある気候変動政策への関与ガイド)」を発表した。そうした活動には、広告宣伝、ソーシャルメディア、広報、研究機関への資金提供、規制当局や議員との直接の接触、選挙運動や政党への献金、政策諮問委員会への参加などがある。

政府による政策ベンチマーク (Governmental Policy Benchmarks)

インフルエンスマップは、パリ協定やIPCCなどのUNFCCCプロセスの一環としてパリ協定実施機関によって現在実施されている、策定中、あるいは将来に施行される可能性のある気候変動政策や規制を考慮に入れている。これらの施策には、目標の設定や基準の導入、財政的介入、その他の拘束力のある規制要件など、詳細を規定する施策策定に向けて国家レベルで表明されている取り組みも含まれる。

気候変動政策への企業の関与・働きかけに関する投資家の期待 (Investor Expectations on Corporate Climate Policy Engagement)

さまざまな投資家グループ(UN PRI、IIGCC)が企業に対して期待する気候変動政策への関与・働きかけプロセス管理のあり方を提示している。投資家が重視しているのは、より広範にわたる政策関与のガバナンスおよび開示である。インフルエンスマップは、投資家の期待に基づき、企業の政策関与プロセスおよび開示を評価している。

パリ協定実施機関(Mandated Bodies)

ここで言う「パリ協定実施機関」とは、各国・地域においてNDCの実施を託されている、さまざまなレベルの政府機関または政府認定機関を指す。2020年4月時点では、米国連邦政府はパリ協定から脱退しているため、インフルエンスマップは同政府をパリ協定実施機関と見なしていない。その一方で、カリフォルニア州などのパリ協定を引き続き遵守する意向を表明している州レベルの機関をパリ協定実施機関と見なしている。

調査項目 (Queries)

インフルエンスマップは、気候変動政策への関与アジェンダを「調査項目(Q1〜Q12)」と称する小分類へと細分化している。Q1〜Q4およびQ6〜Q11は、政府の政策ベンチマークと科学的分析に基づく政策(SBP)ベンチマークに関連している。Q1〜Q4は国家レベル(高位)の気候変動政策の課題に関わる一方で、Q6〜Q11は地方レベルで検討されている可能性のある法案や規制に関するものとなっている。また、Q5とQ12は、気候変動政策への関与・働きかけの企業ガバナンスおよび開示に関するものである。

科学的分析に基づく政策 (Science Based Policy Benchmarks: SBP)

IPCCによって2018年に公表された「1.5℃ 特別報告書」は、気候変動政策アジェンダに関わる、あるいは影響を与える諸問題に取り組む道筋を概説している。その施策には、エネルギーミックス、炭素の価格付け(カーボンプライシング)、再生可能エネルギーおよび電気自動車の導入義務、二酸化炭素回収貯留などのネガティブエミッション技術の採用などが含まれる。インフルエンスマップはIPCCのガイダンスを精査したうえで、「科学的分析に基づく政策(SBP)」ベンチマークとして要約し、それに照らして企業の気候変動政策に対する見解を評価・採点している。

関与の度合い(0-100)(Engagement Intensity)

それが前向き(支持)か後ろ向き(反対)かに関わらず、気候変動政策への働きかけの強度を表す。関与・働きかけの強度が12以上であれば積極的な働きかけを示し、25以上であればと非常に積極的あるいは戦略的な働きかけを示す。12未満は、気候変動政策への働きかけは比較的限定的であることを示す。これは企業およびインフルエンサーの両方に適用される。

インフルエンサー(Influencer)

気候変動政策に働きかけるために企業が使用する第三者団体の総称。経済・業界団体やビジネス連合、商工会議所などがそれにあたる。

組織スコア(0-100) (Organization Score)

付属資料Aに記されたベンチマークに照らして、企業・団体による気候変動政策への働きかけを評価するもの。75以上であれば支持を示し、50未満はゼロに近くなるほど強い反対を示す。これは企業およびインフルエンサーの両方に適用される。

パフォーマンス・バンド(A+ - F)(Performance Band)

気候変動政策への企業の関与・働きかけの総合評価。企業自身による働きかけと、企業が関係を持つ経済・業界団体による働きかけの両方を考慮に入れ、A+からFのスケールで評価するもの(A+は支持を示し、Fは反対を示す)。これは企業のみに適用される。

関係スコア(0-100) (Relationship Score)

企業が関係を持つ経済・業界団体による気候変動政策への働きかけを評価するもの。75以上であれば支持を示し、50未満はゼロに近くなるほど強い反対を示す。これは企業のみに適用される。

関係の強さ(0-10) (Relationship Strength)

経済・業界団体と企業との関係を0〜10のスケールで表したもので、数値が大きくなるほど強くなる。例えば、2000社の会員企業を擁する業界団体があり、そのうち10社が執行委員会のメンバーになっている場合、それ以外の普通会員のスコアが3なのに対し、委員会メンバーの10社のスコアは8となる。また、小規模な業界団体において主要企業の重役が会長を務めている場合には、当該企業には10に近いスコアが付けられる。

経済・業界団体の相対的なランキング(0-10) (Relative Ranking of an Industry Group)

経済・業界団体を0〜10のスケールでランク付けし、米国、欧州、日本などの国・地域レベル、あるいは国際レベルでの影響力を評価するもの。評価にあたり、団体の規模、および当該団体が代弁する企業あるいはセクターの規模・重要性を考慮している。

表6:インフルエンスマップ用語一覧(アルファベット順)。

A.1 はじめに

本報告書は、気候変動政策への働きかけおよびその開示という観点から企業を評価するインフルエンスマップのプロセスを解説するものである。主観と価値判断を取り除くために、インフルエンスマップのシステム下で行われる評価はいずれも主題を外部の基準に照らす厳格なプロセスを踏んでいる。インフルエンスマップは、このプロセスを「ベンチマーキング」と称している。

インフルエンスマップのシステム上では、さまざまなベンチマークが用いられている。表7は、それを第3章で解説した気候変動政策アジェンダの小分類「調査項目」に細分化している。本付属資料では、企業による気候変動政策への実際の関与を見極めるために用いるベンチマーク(Q1〜Q4およびQ6〜Q11)を紹介する。付属資料Bでは、気候変動政策への関与・働きかけに関する企業の直接的な情報開示およびガバナンスの評価に用いるベンチマーク(Q5およびQ12)を解説する。

調査項目

ベンチマークの種類

ベンチマークの説明

Q1: 気候変動科学の認識

科学に基づく

IPCCが報告書として取りまとめている気候変動科学に関する科学的コンセンサス

Q2: 気候変動に対する対応

政府による政策

国レベルでの気候変動に関する取り組み目標とコミットメント

Q3: 気候変動対策における規制措置への見解

政府による政策

政策・規制を通じて気候変動問題に取り組むことに対する政府のコミットメント

Q4: 国連気候変動枠組条約への見解

政府による政策

2015年 パリ協定

Q5: 気候変動政策に対する見解の明確度

投資家の期待

IIGCCやUN PRI、CERESなどの団体が提示する投資家の期待

Q6: 炭素税への見解

政府による政策

炭素税に関する政府の発言

Q7: 排出権取引への見解

政府による政策

排出量取引に関する政府の発言

Q8: エネルギー効率基準法への見解

政府による政策

省エネ基準・目標に関する政府の発言

Q9: 再生可能エネルギー法への見解

政府による政策

再生可能エネルギー政策に関する政府の発言

Q10: エネルギー政策への見解

政府による政策

エネルギーミックスの脱炭素化(エネルギー転換)に関する政府の発言

Q11: 温室効果ガス排出基準への見解

政府による政策

温室効果ガス排出基準・目標に関する政府の発言

Q12: 関係・関与性における情報開示

投資家の期待

IIGCCやUN PRI、CERESなどの団体が提示する投資家の期待

表7:調査項目として細分化されたインフルエンスマップの小分類の説明。

A.2 企業のロビー活動をベンチマークに照らして、評価・採点

インフルエンスマップは、企業による気候変動政策への関与・働きかけのエビデンスを1点ずつ精査し、政策に対する支持度と反対度を測定している。これは談話分析12 という体系化されたプロセスに基づくもので、最終的に各エビデンスは「強く支持」、「支持」、「中庸・どっちつかずの立場」、「不支持」、「反対」のいずれかにコードされる。これらのコードは、+2から−2の5つ数値で表示され、+2はパリ協定・IPCCと整合する気候変動政策を全面的に支持していることを示し、−2は積極的に反対していることを示している。5つの数値からなるスケールを用いることで、気候変動政策に対する企業のスタンスのグレーゾーン(曖昧な領域)をより微妙な分析が可能となっている。インフルエンスマップは、各エビデンスをコードするにあたり、企業による気候変動政策への関与・働きかけのエビデンスをベンチマークに照らしている。従って、支持度あるいは反対度は、企業のスタンスがベンチマークとどの程度整合しているかによって決定される。

A.3 政府の政策ベンチマーク

上表が示すように、気候変動政策への関与・働きかけを評価・採点するインフルエンスマップのシステムは、主としてパリ協定を実施する政府機関の提言・発言や取り組み目標から引き出した政府の政策ベンチマークに基づくものである。ただし、企業が気候変動科学に関する見解をどの程度の透明性をもって表明しているかを評価するQ1については、IPCCの報告書およびガイダンスに依拠している。 政府の政策ベンチマークは、精査するエビデンスの内容と文脈を考慮して選定される。例えば、企業がカリフォルニ州のキャップ&トレード・システムに関する見解を表明している場合には、エビデンスを評価・採点するためのベンチマークとして、カリフォルニア州大気資源局(Californian Air Resources Board: CARB)の発言および取り組み目標を用いている。つまり、本プロセスは、最も関連のある政府機関による当該政策についての発言内容に依拠するものである。以下に、ベンチマークの選定において必ず考慮されるべき2つの重要な点を挙げる。

  • 発言は、特定の政策に関する政府機関の「当初の意図」を最も反映したものでなければならず、それらは政策策定プロセスの開始時になされていることが多い。これにより、すでに企業のロビー活動の影響を受けているベンチマークの使用を避けることができる。

  • 現在の米国環境保護庁(EPA)のように、パリ協定の目標拒否を表明している政府(あるいは政府機関)の発言は除外される。このような場合には可能である限り、当該政府機関がパリ協定を受け入れた時点(例えば、EPAの場合なら2016年以前)へ立ち戻るか、あるいはそれに限りなく近い機関の発言を用いるようにしている。その例として、カリフォルニア州大気資源局(CARB)などの州レベルの気候変動規制当局が挙げられる。

表8は、米国自動車CO2排出基準を例として取り上げ、本システムの仕組みを解説するものである。表9には、気候変動政策への企業の関与・働きかけを評価に用いられるその他の政策ベンチマークの代表例をエビデンスと共に挙げている。

12 Tannen et al., 2015

政策ベンチマーク

スコア

ロビー活動の例

2012年に米国EPAは、2025年までの自動車の温室効果ガス排出基準をより高い水準で設定した。2016年に再吟味し、EPAはそれらの基準は適正だと判断した。2017年にEPAは再度見直しを行い、基準を引き下げたが、2018年にカリフォルニア州大気資源局は、変更は不要であったと見なした

+2

企業が当初の米国温室効果ガス排出基準を積極的に支持している、あるいはより厳格な規制を要請している。

+1

企業が温室効果ガス排出基準への支持を表明している。

0

不明瞭:企業は温室効果ガス排出基準を支持しているように見受けられるが、それが当初同意された水準の厳格な規制を含んでいるかどうかはエビデンスからは不明。

-1

企業が米国温室効果ガス排出基準は緩和されるべきだと主張しているように見受けられる。

-2

企業が温室効果ガス排出基準に反対している、あるいは基準の緩和を求め積極的にロビー活動を行っている。

表8:米国自動車CO2排出基準にまつわるエビデンスを評価・採点するために、インフルエンスマップが使用している政府の政策ベンチマーク。

調査項目

ロビー活動の例

Q6 - 炭素税への見解

国家気候変動対策白書 (NCCRP)(NCCRP) の一環として提案されている南アフリカの炭素税。

2015年、南アフリカ鉱物資源会議所(Minerals Council of South Africa)は、炭素税は「不要かつ時期尚早」だと異論を唱えた(反対、-2)。

ドイツ気候変動法の一環として提案されているドイツにおける欧州域外の排出量取引制度(ETS)対象セクターに対する国レベルの炭素税。

ドイツ産業連盟(BDI)は、国レベルの炭素価格(カーボンプライシング)の導入は、ドイツ企業の国際競争力を低下させない限り「あり得るうえ、実行可能」だと述べている(どっちつかずの立場、0)。

Q7 - 排出権取引への見解

2030年気候変動・エネルギー政策枠組みの下で設定された 温室効果ガス排出削減目標を伴う、EU排出量取引制度

Shell(ロイヤル・ダッチ・シェル)は、EU排出量取引制度(ETS)への支持を表明している(支持、1)。

環境省によって提案されている日本における排出量取引制度。

日本経済団体連合会(経団連)は、「経済活動と国際競争力の低下」を招くと主張し、排出量取引制度に反対している(反対、-2)。

Q8 - エネルギー効率基準法への見解

2030年までにエネルギー消費量を少なくとも32.5%削減するするEUの省エネ目標

Unilever has called for a binding 40% energy efficiency target in Europe by 2030 (Strong support, 2+).

ユニリーバは、欧州における2030年までのエネルギー消費量削減目標として40%を課すよう要請している(強い支持、2+)。

米国企業平均燃費(CAFE)基準値(上記参照)。

2017年にフォードは、CAFE基準値を毎年引き上げることに対する支持を表明したが、同プログラムの厳格度は緩和されるべきだと主張した(不支持、-1)。

Q9 - 再生可能エネルギー法への見解

オーストラリア・ビクトリア州における再生可能エネルギー目標。ビクトリア州の再生可能エネルギー・ロードマップ(2015)の一環として提案され、その後、更新された

I2017年にBHPは、オーストラリアにおける州レベルの再エネ目標の撤廃を要請した(反対、-2)。

日本で2011年に成立した、電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法

アップルは、日本における企業による再エネ導入を奨励するためのさらなる政策オプションへの支持を表明した(強い支持、2+)。

Q10 - エネルギー政策への見解

ドイツにおける石炭の段階的廃止

RWEは、2038年までに石炭火力発電所を段階的に廃止するドイツの方針を「明らかに早すぎる」と批判した(反対、-2)。

米国のオバマ前大統領による北極圏と大西洋の石油・ガス権益リースの無期限禁止

アメリカ石油協会(American Petroleum Institute)は、この撤廃を要請](https://content.influencemap.org/evoke/11177/edit) した(反対、-2)。

Q11 - 温室効果ガス排出基準への見解

カナダのクリーン燃料基準

2018年にカナダ石油生産者協会(Canadian Association of Petroleum Producers)は、上流石油・天然ガスセクターを除外することで、クリーン燃料基準の範囲を狭めるようカナダ政府に要請した(不支持、-1)。

EUの軽量車と重量車に対するCO2排出量の目標

ダイムラーは、トラックに対するCO2排出削減目標引き上げの提案は、実行不可能だという見解を示した(不支持、-1)。

表9:インフルエンスマップが気候変動政策への企業の関与・働きかけを評価するにあたり用いている政策ベンチマークの代表例とそのエビデンス。

A.4 科学的分析に基づく政策(SBP)ベンチマーク

インフルエンスマップの用いる政府の政策ベンチマークは、「政策の中立性」を基礎としている。つまり、本システムは、政府の政策措置そのものの質(良し悪し)を評価するものではなく、むしろパリ協定の実施を託された政府機関による政策提言や目標を、気候変動政策への企業の関与・働きかけをベンチマーキングするうえで最も信頼でき、実社会に即した基準とみなすという前提の上に成り立っている。

パリ協定は、締約国に(産業革命以前の水準からの)世界の気温上昇を2℃より十分に低く保つという「2℃目標」と整合した温室効果ガス削減目標の達成と、1.5℃に抑えるための取り組みにコミットすることを促している。しかし、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって2018年10月に公表された「1.5℃ 特別報告書」ならびに国連環境計画(UNEP)によって2019年11月に公表された「排出ギャップ報告書」が指摘しているように、各国の現行の対応・取り組みはそれらの目標を満たしていない。このことは、インフルエンスマップによる政府の政策ベンチマークを用いた分析結果と、実際に行われているパリ協定と整合する気候変動政策をめぐるロビー活動との間に「隔たり」があることを示している。

IPCCの2018年10月「1.5℃特別報告書」は、1.5℃目標を達成するための緩和策として「厳格かつ統合的介入」の必要性を提唱している。同報告書は、エネルギーミックス、炭素の価格付け(カーボンプライシング)、再生可能エネルギーと電気自動車の導入義務、二酸化炭素回収貯留などのネガティブエミッション技術の採用などといったさまざまな課題に関する詳細かつ政策重視の情報を提供している。上に指摘した「隔たり」を計上するために、インフルエンスマップは、政府の政策ベンチマークを同報告書から導き出したSBPベンチマークで補足している。

そのうえで、インフルエンスマップが重要視しているのは、多くの分野においてまだ策定過程にあり、さまざまな政治・経済情勢の考慮を要する政府の気候変動政策について、時期尚早に誤った判断を下さないようにすることである。

それゆえ、これらのベンチマークの適用に際して、以下の2点に重点を置いている。

▪ 今後のエネルギーミックスにおけるさまざまな種類のエネルギー源の役割と重要性に関する企業の提言など、政府による現行の気候変動政策・規制の特定の事柄には直接関連しない、より広範にわたる気候変動・エネルギー政策課題への企業の関与・働きかけ。インフルエンスマップは、気候変動・エネルギーに関する政府の政策の優先順位を設定するプロセスにおいて、こうした形態の企業および業界の働きかけは非常に重要であると考えている。

▪ 2019年11月時点における米国連邦政府レベルでの環境保護庁のように、パリ協定の目標拒否を表明している政府機関から発せられる特定の政策や規制への関与・働きかけ。

A.5 気候変動政策ベンチマークの基礎としてIPCCのガイダンスを使用

2015年に開催された第21回国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議(COP21)において、UNFCCは気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に対して、パリ協定の適応を後押しするために1.5℃の地球温暖化(このまま地球温暖化が進めば早ければ2030年までに、世界の平均気温は産業革命以前の水準から1.5℃上昇する)に関する特別報告書を作成するよう求めた。その目的は、持続可能な発展を遂げながらも、「産業革命以前の水準からの世界の平均気温の上昇を2℃より十分に低く保ち、気温上昇を1.5℃に抑えるために取り組む」というパリ協定の目標と整合する世界の温室効果ガス排出削減への道筋を提示するものである。2018年に公表された報告書は、1.5℃目標に沿った世界のエネルギーシステムの変容につながる可能性のある方策および体系的な移行の選択肢の概観を示している。IPCCによる過去の研究の考察事項に基づき、同報告書は地域情勢や社会経済状況も考慮しつつ、とりわけ政策当局者に対して、気候変動問題に取り組むために必要となる情報を提供することを意図している。

本報告書は、システムの変革の実現には「強力で厳格、かつ緊急の変革的な政策介入」が必要となり、企業に大きく異なる条件下で業務運営や製品販売を行なうことを強いることになると結論づけている。IPCCは、1.5℃目標達成に向けたさまざまな緩和の道筋における種々のエネルギー源の役割、テクノロジー、および政策オプションの評価(第2章)と、エネルギー、運輸、および工業システムの変革に向けたさまざまな緩和策の実行可能性に関するさらなる論考(第4章)を通じて、パリ協定の1.5℃目標に整合する政策スタンスを理解するための枠組みを提供している。インフルエンスマップは、これらの科学的根拠に基づく評価をもとに、企業による政策への「科学に基づく」関与・働きかけを評価するための新たなベンチマークを構築できるものと考えている。

気候変動問題に取り組むうえで、数々の道筋が考えられ、時としてそれらは相反するものであることから、IPCCは、さまざまな温室効果ガス排出削減オプションの実行可能性を技術、社会経済、および政策の側面から評価するための総合評価モデル(Integrated Assessment Models:IAM)を用いている。2018年の報告書にてIPCCは、地球温暖化を1.5℃あるいは2℃未満に抑えるためのさまざまな脱炭素化の道筋(実現手段)を検討するためにIAMを用いた。それは、1.5℃シナリオに沿った90通りのシナリオと、2℃シナリオに沿った132通りのシナリオを含むものである。1.5℃特別報告書に提示された研究結果は、これらの組み合わせ(アンサンブル)の評価に基づいている。IAMの結果は、例えば、人口の増加に伴う食料需要と食料品製造業のGDP増加との想定上の関係など、コードに組み込まれた前提条件に大きく依存するものである。

ほとんどのIAMは、緩和目標の達成にかかる経済コストの最小化を目的とする傾向にあり、そのため、さまざまな政策決定の与えうるインプリケーションの評価を通じて、政策策定プロセスに方向性を与えるために用いられることを意図している。個々のIAM手法は、それ自体がある特定の進め方に影響を与えるものでなく、またある一つの緩和の道筋を辿るものでもないが、IAMアンサンブル全体の結果がもたらす合意分野を通じてコンセンサスを得ることができる。このコンセンサスに基づく手法は、1.5℃特別報告書(SR15)に提示されている炭素税や省エネ、種々のエネルギー源の役割などといったさまざまな気候変動政策の課題に関する知見のキーポイントを導き出すもので、それらは政策策定の方向づけに用いることができる。IPCCによるこれらの気候変動政策課題の分析は、仮説に基づきさまざまなエネルギー源、テクノロジー、および政策方針の気候変動への寄与度を計測するだけでなく、これらのオプションに伴う技術・政治・経済面の実行可能性にまつわる課題の分析も含んでいる。インフルエンスマップは、この分析の両面を考慮するためにIPCCの1.5℃特別報告書を用いている。

IPCCの1.5℃特別報告書から評価・採点に用いるベンチマークを導き出すインフルエンスマップのプロセスは、次のような原則に準拠している。 - IPCC報告書の中でも、非常に信頼性があり、最も多くのエビデンスに裏付けられた政策ガイダンス提言を最重視している。企業あるいは経済・業界団体がこれらの提言に支持(一致)、または反対(相反)の見解を示している場合には、最も高スコアがつけられる。より微妙な差違が求められる採点の枠組みを導き出すために、IPCC報告書に要約されたその他の知見も用いている。

  • 企業および経済・業界団体が表明している見解の特殊性を考慮に入れながら、これらの組織の科学的分析に基づく政策ベンチマークとの整合性を分析している。また、それらの見解がどのように示されているかについても考慮している。特定の気候変動政策の課題に対する積極的な働きかけや支持を示すエビデンスは、より消極的あるいはありきたりな提言よりも、科学的分析に基づく政策ベンチマークとの整合または不整合を一層明確にする。従って、特定の気候変動政策の課題についての詳細な提言のエビデンスには、その課題に関する一般論的あるいは表向きの提言よりも、より高い支持(整合)または反対(不整合)スコアがつけられることになる。

以下に、エネルギーミックスにおける石炭・天然ガス・石油・原子力・再生可能エネルギーの役割に関する企業および経済・業界団体の提言を評価するために新たに設けた5つの科学的分析に基づく政策ベンチマークを概説している。これらのベンチマークは、世界のエネルギー転換において各電源が担うより広範にわたる役割に重点を置いており、とりわけ石炭、天然ガス、原子力、再生可能エネルギーは電力セクターに関わる。今後、必要に応じて、輸送および工業セクターにおける低炭素化への移行を評価するためのより明示的なベンチマークを、その他のさまざまな政策課題や燃料の種類、テクノロジーに関わるベンチマークと共に設定していく予定である。

以下のベンチマークは、それぞれ2つの表を伴っている。最初の表は、ベンチマークの概要と、その基礎となるIPCCの知見のキーポイントおよび提唱内容を提示するものである。2番目の表では、それを+2から−2の採点の枠組みに当てはめ、上記の政策課題に対する企業の関与・働きかけを評価するうえで、当該ベンチマークがどのような場合に適用されているのか具体例を挙げながら解説している。

A.6 石炭

石炭関連のロビー活動の評価に用いる科学的分析に基づく政策ベンチマークの概要

将来のエネルギーミックスにおける石炭の役割に関するIPCCの見解と整合していると評価されるには、CCSを併設しない(unabated)石炭による発電をエネルギーミックスから早急に排除するための政府介入への強い支持が見られなければならない。そうした立場は、2020年から2050年というIPCCのガイダンスと一致するタイムラインを言及のうえ示される必要がある。また、企業・団体が、長期化しつつも大幅に低下する石炭の役割を提言していれば、スコアはプラスになる。ただし、そのためには、CCSの導入を絶対条件とする見解を表明していなければならない。また、IPCCが提示する同アプローチに伴うリスクと不確実性に関する見解の透明性が確保されていなければならない。これ以外の石炭の役割の長期化に関する提言はすべて、マイナスのスコアとなる。これには、高効率・低排出テクノロジーの使用に関する提言も含まれる。また、CCSを言及しながらも、その規模拡大・導入を確実に行うための計画が曖昧な場合、あるいはIPCCの指摘するこの道筋が伴うリスクに関する見解の透明性が確保されていない場合もそれに含まれる。石炭火力発電所の耐用年数およびCCSの規模拡大・導入にまつわる不確実性により、石炭火力発電所の新設を含め、石炭火力発電の設備容量の増加への支持を表明している場合は、CCSに関する見解に関わらず、いずれもスコアはマイナスとなる。

IPCCの知見のキーポイント:

エネルギーミックスに関する政府の取り組み

“2℃から1.5℃の排出経路に移行するには、社会・技術的な移行を加速させるための強力かつ統合的な政策および導入規模の拡大、ならびにこの先何十年も温室効果ガス排出をロックイン(固定化)させる可能性のある現行システムの段階的廃止が必要になることを意味する(確信度が高い)。(中略)発表済みの学術論文は、1.5℃目標に沿った緩和の道筋は厳格かつ統合的な政策介入を要するであろうことを示している(確信度が非常に高い)。”(SR15、第2章 2.5.1)

エネルギーミックスにおける石炭の軌道(trajectory)

“オーバーシュートが無いもしくは限定的なモデル化した1.5℃の排出経路では、CCSを使用することで、2050年の世界の総発電量に占める天然ガスのシェアは約8%(四分位範囲3〜11%)となるが、石炭の使用はすべての経路で激減し、そのシェアは0%(四分位範囲0〜2%)近くまで低下すると見られる(確信度が高い)。”(SR15、政策当局者向けの要約C2.2)

“一次エネルギーに占める再生可能エネルギーのシェアが拡大する一方で、石炭の使用は、オーバーシュートが無いもしくは限定的な地球温暖化を1.5℃に抑えるあらゆる排出経路において減少することになる(確信度が高い)。オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃の排出経路においては、2050年までに再生可能エネルギー(バイオマス、水力、風力、太陽光など、一次エネルギー評価方法(direct equivalence method)にて)が一次エネルギーに占めるシェアは52〜67%(四分位範囲)になる。その一方で、石炭のシェアは1〜7%(四分位範囲)まで低下し、その大部分は二酸化炭素回収貯留(CCS)を伴うことになる。”(SR15、第2章、要旨)

表2.6| 1.5℃排出経路における世界の一次エネルギー供給(シナリオ・データベースより) 一次エネルギーに占める石炭の割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 25.63%; 2030 = 9.62%; 2050 = 5.08% |高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 25.94%; 2030 = 14.53%; 2050 = 4.41%(SR15、第2章2.4.2.1)

表2.7 |1.5℃排出経路における世界の発電量(シナリオ・データベースより) 発電量に占める石炭の割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 32.32%; 2030 = 7.28%; 2050 = 0.82%|高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 32.39%; 2030 = 14.23%; 2050 = 0.55%(SR15、第2章 2.4.2.1)

電力セクターの炭素集約度

“オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃排出経路は、電力の炭素集約度の急低下および最終エネルギー消費の電力化率の上昇を伴うことになる(確信度が高い)。電力の炭素集約度は2020年の約140gCO2 MJ−1から、2050年までに−92〜+11gCO2 MJ−1(最小値〜最大値)まで減少する。(中略)地球温暖化を1.5℃未満に抑える可能性の高い経路では全般的に、2030年までの電気の炭素集約度の低下の速度が、一時的に1.5℃を超える(オーバーシュートする)経路よりも速くなる。”(SR15、第2章、要旨)

“1.5℃(の地球温暖化)に整合する排出経路の主な特徴は、図2.5の排出経路モデルにて強調されているように、今世紀半ば頃には電力セクターにおける完全な脱炭素化を成し遂げるものであり、それは2℃に整合する排出経路でも共通して見られる特徴である。”(SR15、第2章 2.3.2.1)

炭素集約型テクノジーのロックイン(固定化)および廃止

“時間の経過と共に明らかに生じるこの地球物理学的なトレードオフに加え、温室効果ガス排出量削減をこの先数年にわたり遅らせることは、炭素集約型インフラへの経済・組織的ロックイン、すなわち、一度導入すると段階的廃止が困難ないしそのコストが高くつく炭素集約型のテクノロジーへの投資および使用を継続することになる(Unruh and Carrillo-Hermosilla, 2006; Jakob et al., 2014; Erickson et al., 2015; Steckel et al., 2015; Seto et al., 2016; Michaelowa et al., 2018)。さまざまな研究のモデル結果が示すところによると、温室効果ガス排出量削減が短期的に遅れながらも、厳しい気候目標を達成するには、炭素集約型インフラ、とりわけCCSを併設しない石炭火力発電所は早期に閉鎖されることになる(Bertram et al., 2015a; Johnson et al., 2015)。”(SR15、第2章 2.3.5)

化石燃料の採掘および発電

“IAM研究は、1.5℃に整合する排出経路においては、2025年までに世界全体で低炭素エネルギーへの投資が化石燃料への投資を凌ぐと予測している(第2章 2.5.2)。(中略)これに対して化石燃料の採掘およびCCSなし(unabated)の化石燃料による発電への投資は、1.5℃に整合する経路では2016年〜2050年の間に毎年0.3〜0.85兆米ドル減少し、CCSなしの石炭火力発電への投資は、1.5℃に整合する経路のほとんどにおいて2030年までに半減すると予測される。(第2章 2.5.2)(SR15、第4章、要旨)

電力セクターにおけるCCSの役割

“研究は、CCSは発電、液化、および工業的利用における化石燃料の温室効果ガス排出量を抑制する役割を担うと共に、バイオマスと組み合わせることで大気からCO2を除去する可能性があることを踏まえ、大幅削減を伴う緩和経路に対するCCSの重要性を示している(Krey et al., 2014a; Kriegler et al., 2014b)。(中略)排出経路によって天然ガスおよび石炭と組み合わせたCCSの導入は大きく異なるが、その多くの経路において、一次エネルギーとしては石炭よりも天然ガスのCCSがより多く導入されることになる(図2.17)。(中略)現在の導入の伸び悩み、導入に不随するCCS技術の進展、ならびに大規模な導入を促すインセンティブ(優遇措置)が欠如する現状を考慮すると、CCSの将来の導入には不確実性がある(Bruckner et al., 2014; Clarke et al., 2014; Riahi et al., 2017)。”(SR15、第2章2.4.2.3)

“世界の気温上昇を産業革命前の水準から1.5℃に抑えるために必要とされるエネルギーシステムの転換が世界各地の数々のセクターにおいて進められている(中程度のエビデンス、高い同意率)。太陽光、風力、および蓄電技術の政治・経済・社会・技術的な実行可能性は、過去数年間で大きく高まっているが、その一方で、電力セクターにおける原子力および二酸化炭素回収貯留(CCS)は同様の向上を見せていない。”(SR15、第4章、要旨)

“モデル研究が示唆するところによると、電力セクターにおけるCCSの利用は、地球温暖化を1.5℃に抑えるCO2排出削減目標の費用対効果に優れた達成に寄与できる。また、CCSは、化石燃料に依存する経済に雇用および政治面のメリットをもたらしうるが(Kern et al., 2016)、それに伴うコベネフィットはその他の緩和の選択肢(例えば、発電)よりも限定的であるゆえ、事業採算性および経済的な実行可能性を確保するにはインセンティブを与える気候変動政策に頼ることになる。(中略)電力セクターにおけるCO2回収の技術的な成熟度はかなり向上しているが(Abanades et al., 2015; Bui et al., 2018)、商用利用の知見が限られており、エネルギー・資源コストが高騰しているため、2005年から2015年にかけてCCSコストは低下していない(Rubin et al., 2015)。” (SR15、第4章 4.3.1.6)

表10:石炭に関する科学的分析に基づくベンチマークおよびIPCCの知見のキーポイント。

スコア

説明

適用例

事例

2+

企業が2050年までのエネルギーミックスにおける石炭の役割に関するIPCCガイダンスと明らかに整合するアドボカシー(政策提言)を積極的に行っている。

企業が2050年までの世界の電力セクターの脱炭素化に向けたエネルギー転換と明らかに一致する見解を表明している。

企業がIPCCガイダンスに則して、2020年から2050年にかけて世界のエネルギーミックスにおける石炭の役割の大幅な低下を提言している。

企業が石炭火力発電所の早期の閉鎖を支持しており、石炭火力発電所の新規建設の許可に反対している。

企業がエネルギーミックスにおける石炭の役割を延長させるインフラや投資、その他のシステムに反対している。

企業が石炭の段階的廃止を確実にするための政府による厳格な政策介入の必要性を提言している。

企業が残存する石炭火力による発電は2030年までにCCSの規模拡大および導入を確実に行うための厳格な施策次第としつつ、世界のエネルギーミックスにおける石炭の役割の大幅な低下を支持している(注:CCSの導入との組み合わせによる石炭の役割の長期化に伴うリスクおよび不確実性に対する見解が透明性をもって開示されていなければならない。)

“2020年までに世界が達するべきエネルギー目標。世界の電力供給に占める再生可能エネルギーの割合は、2015年の23.7%から少なくとも30%まで増加する。2020年以降、石炭火力発電所の新設許可数はゼロになり、既存の発電所はすべて閉鎖に向かうことになる。” Unilever(ユニリーバ)の前CEOポール・ポルマン氏によって署名された2017 年の「Mission 20:20」

1+

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける石炭の役割に関するIPCCガイダンスとほぼ整合している。

企業がエネルギーミックスにおける石炭の段階的廃止への支持を表明している。

企業が電力セクターの脱炭素化への支持を表明している。

企業がエネルギーミックスにおける石炭の段階的廃止を促すための政府介入の必要性について発言している。

企業が残存する石炭火力による発電は2050年までにCCSの規模拡大および導入を確実に行うための厳格な施策次第としながら、世界のエネルギーミックスにおける石炭の役割の大幅な低下を支持している(注:CCSの導入との組み合わせによる石炭の役割の長期化に伴うリスクおよび不確実性に対する見解が透明性をもって開示されていなければならない。)

“産業機械業界の最大手シーメンスや小売企業メトロなどの50社を超えるドイツ企業が、石炭火力発電所を段階的に廃止するよう政府に要請している。(中略)将来の政府は「確実かつ社会的に受け入れられる石炭火力発電から撤退する道筋」を立てなければならない。」と企業は述べている。” Handelsblatt Global、2017年10月

0

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける石炭の役割に関するIPCCガイダンスに整合しているか不明瞭。

エネルギーミックスにおける石炭の段階的廃止を支持しているが、移行のペースに関する見解が曖昧である。例えば、老朽化した石炭火力発電所を再生可能エネルギーに置き換えることを支持しているが、耐用年数に達していない石炭火力発電所の早期の閉鎖に対する支持は明瞭でない。

エネルギーミックスにおいて残存する石炭の役割はCCSの導入が前提としながら、世界のエネルギーミックスに占める石炭の割合の縮小を支持している。だが、同アプローチに伴う不確実性やリスク、またはCCS導入に関するタイムラインに関する見解を明瞭にしていない。

“電力ユーティリティは、2050年までにカーボンニュートラル(炭素中立)化することを公約し、イタリアにて23の石炭火力発電所を閉鎖する。同社は、石炭火力発電所の新設は決して行わないと述べており、イタリアおよびチリにおける2件の新設計画を打ち切った。フランチェスコ・スタラーチェ(Enel(エネル)CEO)は「老朽化する化石燃料発電所が閉鎖されると同時に、その設備容量が再生可能エネルギーによって置き換えられることが重要である」と付言した。” RechargeNews、2016年5月

-1

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける石炭の役割に関するIPCCガイダンスに整合しているか不明瞭。

企業が脱石炭への移行に対する支持を表明しているが、それは市場原理に委ねるべきだと主張している。

企業がCCSの導入次第で、エネルギーミックスにおける石炭の役割の継続を支持している。だが、企業が支持する石炭の役割は、IPCCの推定する燃料(石炭)および技術の役割を超えているように見受けられる(例えば、新規建設を提言しているなど)。

企業が例外を設けつつ石炭火力発電所におけるCCS導入の必要性を支持している。例えば、すべての残存する石炭火力発電設備にCCSを付設することに関してそれほど厳格でないタイムラインを提案している。

“最高経営責任者(CEO)のイバン・グレンコア氏が率いる代表団は先週キャンベラを訪れ、炭素隔離を伴う高効率・低炭素(HELE)型の石炭火力発電所をエネルギーミックスに含めるべきだと提言した。(中略)「オーストラリアには、二酸化炭素排出を大きく削減するために、石炭・天然ガス火力発電所の新設、または既存設備の改造においてCCSを伴うHELEテクノロジーが活用できることを実証する機会がおおいにある」と同企業は述べた。” The Australian Financial Review、2019年11月

-2

企業が2050年までのエネルギーミックスにおいて低下する石炭の役割に関するIPCCガイダンスに反対する姿勢を積極的に表明している。

エネルギーミックスにおける石炭の役割の継続を支持している。*

石炭資産(石炭火力発電所)の早期の閉鎖に反対している。*

石炭火力発電所の新増設の必要性を提言している。*

エネルギーミックスにおける石炭の将来の役割を可能にする投資、インフラ、および政策措置を提言している。*

IPCCが提唱するよりも遅いペースでの低炭素化への移行を支持している。*

企業が石炭を段階的に廃止するための政府によるエネルギーミックスへの介入に反対している。

すべての石炭資産(石炭火力発電所)へのCCS付設を徹底するための施策に反対している。

“Count on Coalは、ふんだんにある石炭の発電における利用を途絶えさせることなく、促進することにより、電力を手頃な価格に保つという使命を支持するアメリカ人を発掘、教育、リクルートする草の根団体である。”米国鉱業協会(National Mining Association)が実際するon Coal キャンペーン](https://www.countoncoal.org/about-us/)

表11:石炭関連の政策への企業の関与・働きかけの評価におけるベンチマークの適用例と採点の枠組み。

  • CCSテクノロジーに言及しているものの、それを将来的な石炭の使用の条件としていない場合、あるいはCCSの規模拡大および導入を確実に行うための規制に対する支持を示していない場合もこれに含まれる。同様に、高効率・低排出(HELE)テクノロジーを前提とした石炭の使用に対する支持も含まれる。

A.7 天然ガス

天然ガス関連のロビー活動の評価に用いる科学的分析に基づく政策ベンチマークの概要

エネルギーミックスにおける天然ガスの役割に関するIPCCの見解と整合していると企業・団体が評価されるには、CCSを併設しない(unabated)天然ガスをエネルギーミックスから排除するための厳格な政府介入を支持していることが条件となる。そして、そうした立場は、2020年から2050年というIPCCのガイダンスと一致するタイムラインを言及のうえ示される必要がある。また、CCSの導入およびメタン漏出対策を絶対条件とし、エネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの割合の増加に関してIPCCのガイダンスと明らかに整合している限りは、エネルギーミックスにおいて長期化する天然ガスの役割を支持している場合でもスコアはプラスになる。ただし、そのためにはIPCCが提示する同アプローチに伴うリスクおよび不確実性に関する見解を明示している必要がある。それに比べ、エネルギーミックスの低炭素化への移行に対する支持を表明しながらも、CCSを併設しない化石燃料削減のタイムラインおよび度合いに関して曖昧性がある場合にはスコアは低くなる。CCSを併設しない天然ガスなどの化石燃料からの移行に政府介入は不要だとする提言があれば、スコアはマイナスになる。また、CCSの導入およびメタン漏出対策に関する明確な条件を伴うことなく、「低炭素」であることを根拠に天然ガスを支持している場合も、同じくスコアはマイナスなる。同様に、天然ガスを支持し、温室効果ガスを大量に排出するエネルギーシステムへのロックイン(固定化)を招くリスクのある施策を支持する提言を行っている場合、あるいはCCS導入を義務化する必要性を否定している場合には、スコアは大きくマイナスになる。

IPCCの知見のキーポイント:

エネルギーミックスに関する政府の取り組み

“2℃から1.5℃の排出経路に移行するには、社会・技術的な移行を加速させるための強力かつ統合的な政策および導入規模の拡大、ならびにこの先何十年も温室効果ガス排出をロックイン(固定化)させる可能性のある現行システムの段階的廃止が必要になることを意味する(確信度が高い)。(中略)発表済みの学術論文は、1.5℃目標に沿った緩和の道筋は厳格かつ統合的な政策介入を要するであろうことを示している(確信度が非常に高い)。”(SR15、第2章2.5.1)

エネルギーミックスにおける天然ガスの軌道

“オーバーシュートが無いもしくは限定的なモデル化した1.5℃の排出経路では、CCSを使用することで、2050年の世界の総発電量に占める天然ガスのシェアは約8%(四分位範囲3〜11%)となるが、石炭の使用はすべての経路で激減し、そのシェアは0%(四分位範囲0〜2%)近くまで低下すると見られる(確信度が高い)。”(SR15、政策当局者向けの要約C2.2)

“2020年から2050年にかけて一次エネルギー供給に占める石油の割合はほとんどの経路で減少する(四分位範囲−39〜−77%)。天然ガスは−13%から−62%(四分位範囲)と減少に転じるものの、一部の経路においてはCCSの広範囲な導入に伴い目立った増加が見られる。”(SR15、第2章、要旨)

“すべての1.5℃排出経路において、一次エネルギー供給に占める化石燃料のシェアは2020年から2050年にかけて低下するが、その動向は石油と天然ガス、石炭では異なる(表2.6)(中略)天然ガスは、さまざまなレベルのCCSを伴いながら、−88〜+85%(四分位範囲−62〜−13%)で推移する。”(SR15、第2章2.4.2.1)

表2.6| 1.5℃排出経路における世界の一次エネルギー供給(シナリオ・データベースより) 一次エネルギーに占める天然ガスの割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 23.10%; 2030 = 22.52%; 2050 = 13.12% |高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 23.61%; 2030 = 25.79%; 2050 = 15.67%(SR15、第2章2.4.2.1) 表2.7 |1.5℃排出経路における世界の発電量(シナリオ・データベースより)

発電量に占める天然ガスの割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 24.39%; 2030 = 20.18%; 2050 = 6.93%|高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 26.97%; 2030 = 22.29%; 2050 = 5.29% (SR15、第2章 2.4.2.1)

電力セクターの炭素集約度

“オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃排出経路は、電力の炭素集約度の急低下および最終エネルギー消費の電力化率の上昇を伴うことになる(確信度が高い)。電力の炭素集約度は2020年の約140gCO2 MJ−1から、2050年までに−92〜+11gCO2 MJ−1(最小値〜最大値)まで減少する。(中略)地球温暖化を1.5℃未満に抑える可能性の高い経路では全般的に、2030年までの電気の炭素集約度の低下の速度が、一時的に1.5℃を超える(オーバーシュートする)経路よりも速くなる。”(SR15、第2章、要旨)

“1.5℃(の地球温暖化)に整合する排出経路の主な特徴は、図2.5の排出経路モデルにて強調されているように、今世紀半ば頃には電力セクターにおける完全な脱炭素化を成し遂げるものであり、それは2℃に整合する排出経路でも共通して見られる特徴である。”(SR15、第2章2.3.2.1)

化石燃料の採掘および発電への投資

“IAM研究は、1.5℃に整合する排出経路においては、2025年までに世界全体で低炭素エネルギーへの投資が化石燃料への投資を凌ぐと予測している(第2章2.5.2)。(中略)これに対して化石燃料の採掘およびCCSなし(unabated)の化石燃料による発電への投資は、1.5℃に整合する経路では2016年〜2050年の間に毎年0.3〜0.85兆米ドル減少し、CCSなしの石炭火力発電への投資は、1.5℃に整合する経路のほとんどにおいて2030年までに半減すると予測される。(第2章2.5.2)(SR15、第4章、要旨)

炭素集約型テクノジーのロックイン(固定化)および廃止

“時間の経過と共に明らかに生じるこの地球物理学的なトレードオフに加え、温室効果ガス排出量削減をこの先数年にわたり遅らせることは、炭素集約型インフラへの経済・組織的ロックイン、すなわち、一度導入すると段階的廃止が困難ないしそのコストが高くつく炭素集約型のテクノロジーへの投資および使用を継続することになる(Unruh and Carrillo-Hermosilla, 2006; Jakob et al., 2014; Erickson et al., 2015; Steckel et al., 2015; Seto et al., 2016; Michaelowa et al., 2018)。さまざまな研究のモデル結果が示すところによると、温室効果ガス排出量削減が短期的に遅れながらも、厳しい気候目標を達成するには、炭素集約型インフラ、とりわけCCSを併設しない石炭火力発電所は早期に閉鎖されることになる(Bertram et al., 2015a; Johnson et al., 2015)。”(SR15、第2章2.3.5)

電力セクターにおけるCCSの役割

“研究は、CCSは発電、液化、および工業的利用における化石燃料の温室効果ガス排出量を抑制する役割を担うと共に、バイオマスと組み合わせることで大気からCO2を除去する可能性があることを踏まえ、大幅削減を伴う緩和経路に対するCCSの重要性を示している(Krey et al., 2014a; Kriegler et al., 2014b)。(中略)排出経路によって天然ガスおよび石炭と組み合わせたCCSの導入は大きく異なるが、その多くの経路において、一次エネルギーとしては石炭よりも天然ガスの CCS がより多く導入されることになる(図2.17)。(中略)現在の導入の伸び悩み、導入に不随するCCS技術の進展、ならびに大規模な導入を促すインセンティブ(優遇措置)が欠如する現状を考慮すると、CCSの将来の導入には不確実性がある(Bruckner et al., 2014; Clarke et al., 2014; Riahi et al., 2017)。”(SR15、第2章2.4.2.3)

“世界の気温上昇を産業革命前の水準から1.5℃に抑えるために必要とされるエネルギーシステムの転換が世界各地の数々のセクターにおいて進められている(中程度のエビデンス、高い同意率)。太陽光、風力、および蓄電技術の政治・経済・社会・技術的な実行可能性は、過去数年間で大きく高まっているが、その一方で、電力セクターにおける原子力および二酸化炭素回収貯留(CCS)は同様の向上を見せていない。”(SR15、第4章、要旨)

“モデル研究が示唆するところによると、電力セクターにおけるCCSの利用は、地球温暖化を1.5℃に抑えるCO2排出削減目標の費用対効果に優れた達成に寄与できる。また、CCSは、化石燃料に依存する経済に雇用および政治面のメリットをもたらしうるが(Kern et al., 2016)、それに伴うコベネフィットはその他の緩和の選択肢(例えば、発電)よりも限定的であるゆえ、事業採算性および経済的な実行可能性を確保するにはインセンティブを与える気候変動政策に頼ることになる。(中略)電力セクターにおけるCO2回収の技術的な成熟度はかなり向上しているが(Abanades et al., 2015; Bui et al., 2018)、商用利用の知見が限られており、エネルギー・資源コストが高騰しているため、2005年から2015年にかけてCCSコストは低下していない(Rubin et al., 2015)。”(SR15、第4章4.3.1.6)

メタンガスの排出削減

“地球温暖化を1.5℃に抑えるには、2050年頃までに世界のCO2排出量をネットゼロすると同時に、とりわけメタンなどのCO2以外の排出量も大幅に削減される必要がある(確信度が高い)。(SR15、第2章、要旨)

表12:天然ガスに関する科学的分析に基づくベンチマークおよびIPCCの知見のキーポイント。

スコア

説明

適用例

事例

2+

企業が2050年までのエネルギーミックスにおける天然ガスの役割に関するIPCCガイダンスと明らかに整合するアドボカシー(政策提言)を積極的に行っている。

企業が2050年までの世界の電力セクターの脱炭素化に向けたエネルギー転換と明らかに一致する見解を表明している。

企業が再生可能エネルギーを支持し、化石燃料の段階的廃止を提言している。

企業がIPCCガイダンスに則して、2020年から2050年にかけて世界のエネルギーミックスに占める天然ガスの割合の縮小を提言している。

企業がエネルギーミックスにおいて天然ガスを含むCCSなしの化石燃料へのロックインを招くリスクのあるインフラや投資、その他のシステムに反対している。

企業がエネルギーミックスからCCSなしの天然ガスを排除するための政府による厳格な政策介入を提言している。

企業が残存する天然ガスによる発電はすべて、2050年という明確な期限までのCCS付設完了、ならびに厳格なメタン漏出対策次第としながら、エネルギーミックスに占める天然ガスの割合の縮小を支持している(注:また企業は、CCSと組み合わせた天然ガスに伴う、IPCCが指摘するリスクおよび不確実性に対する見解を透明性をもって示していなければならない。)

“気候変動の主因は、現行のエネルギーシステム(低炭素の電力、天然ガス、および石油を含む)である。(中略)従って、気候変動問題の解決策はエネルギーモデルの変革を要し、それは(1)エネルギーの節約・高効率化、および(2)基本的には再生可能エネルギーの使用を通じて、化石燃料をゼロエミッション電源へと漸進的に置換することによってなされるべきである。(中略)2050年までに再生可能エネルギーを主軸にするカーボンフリーなシステムに移行することを目標に前進すべきである。”Iberdrola(イベルドローラ)によるタラノア対話への提出、2018年

1+

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける天然ガスの役割に関するIPCCガイダンスとほぼ整合している。

企業がエネルギーミックスに占める天然ガスを含む化石燃料の割合を縮小するための施策への支持を表明している。

企業が2050年までの電力セクターの脱炭素化に向けた移行への支持を表明している。

企業がエネルギーミックスから天然ガスを含むCCSなしの化石燃料を排除するための政府介入の必要性について発言している。

企業が天然ガスの役割はCCS付設およびメタン漏出対策に拠るべきであると発言している(注:また企業は、CCSと組み合わせた天然ガスに伴う、IPCCが指摘するリスクおよび不確実性に対する見解を透明性をもって示していなければならない。)

“景気刺激策は、より健康的かつレジリエント(強靭)なネットゼロエミッション経済を構築に寄与するものであるべきだ。(中略)石油・天然ガスの生産国および石炭の豊富な国(経済)にとっては、この危機は10年先に迫っていた移行を早めることになる。財政出動は、最も競争力が劣る資産の早期の段階的な廃止、経済の多角化、そして移行の影響を受けることになる労働者および地域への支援策に有効に費やすことができる。”エネルギー移行委員会(Energy Transitions Commission:ETC)、世界経済の回復に役立つ7つの優先事項、2020年5月(BP、SSAB(サーブ)、Allianz(アリアンツ)などの企業が署名

0

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける天然ガスの役割に関するIPCCガイダンスに整合しているか不明瞭。

企業が世界のエネルギーミックスに占める天然ガスの割合の縮小を含めたエネルギー経路(排出経路)を支持している。縮小の度合いおよびペースがIPCCのガイドラインに整合しているか不明瞭。

石炭から天然ガスへの移行を支持している。天然ガスをエネルギー問題の長期的な解決策として見ているか不明瞭。

エネルギーミックスにおけるCCSを伴う天然ガスの役割の継続を支持する一方で、CCS導入を確実に行うための条件およびタイムラインに関する見解が曖昧。

“運輸、工業、および建築セクターの脱炭素化における天然ガスの役割、また石炭の代替電源としてのその役割を支持する政策を提言する。(中略)直接的なメタン排出規制を気候システムのリスクとして捉えている。(中略)炭素回収・利用・貯留(CCUS)の大規模導入を可能にする規制の枠組みおよびその他の政府による支援措置を提言する。”Shell(ロイヤル・ダッチ・シェル)の気候変動関連の政策に対する見解、2020年4月に更新

-1

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける天然ガスの役割に関するIPCCガイダンスに整合していない。

企業がエネルギーミックスにおける天然ガスを含む化石燃料からの脱却の経済的ないし技術的な実現可能性にまつわる懸念を強調している。エビデンスは、企業がIPCCの提唱よりも遅いペースでの低炭素化への移行を支持していることを示唆している。

企業が低炭素エネルギー源への転換に対する支持を表明しているが、それは市場原理に委ねるべきだと主張している。

企業がCCSの導入またはメタン漏出対策に関して明確な条件を設けることなく、エネルギーミックスにおける天然ガスの長期的な役割を望ましいとする見解を示している。

企業がCCSの導入またはメタン漏出対策に関して明確な条件を設けることなく、「低炭素」であることを根拠にエネルギーミックスにおける天然ガスに対する支持を表明している。

“The influx of natural gas will play a critical role by helping to meet increasing demand and, indirectly, by enabling the growing use of renewables In coming decades, as new cities, factories and infrastructures rise around the world, U.S. natural gas can help fuel our energy demand and drive economic growth, both at home and abroad” - Chevron, paid-for editorial in the NYT.

“天然ガスの流入は、増加する電力需要を満たし、間接的に再生可能エネルギーの活用を促進させることにより、重要な役割を担うことになる。(中略)今後数十年のうちに、世界中で新たな都市、工場、およびインフラが誕生する中、米国産天然ガスは自国と海外の両方において、エネルギー需要を賄うのに役立ち、経済成長を助長することができる。”Chevron(シェブロン)、ニューヨークタイムズ紙の記事広告

-2

企業が2050年までのエネルギーミックスにおいて低下する天然ガスの役割に関するIPCCガイダンスに反対する姿勢を積極的に表明している。

企業が天然ガスを含むCCSなしの化石燃料のエネルギーミックスに占める割合を縮小することに反対している。

企業がCCSなしの化石燃料を段階的に廃止するための政府によるエネルギーミックスへの介入に反対している。

企業が天然ガスを含むCCSなしの化石燃料へのロックインを招くインフラや投資、その他のシステムを支持している。

エネルギーミックスにおける天然ガスの役割に関して言えば、CCS付設を徹底するための厳格な施策の必要性を否定している。

“政府による介入ではなく、市場が発電のエネルギー源を決定すべきである。市場はイノベーションを奨励し、低価格化をもたらし、電力セクターにおけるCO2排出量を削減し、また消費者に恩恵をもたらす。天然ガスはその豊富さと柔軟性により、発電用のエネルギー選択肢としてますます存在感を増している。市場は、政府によって仕向けられるのではなく、自由に機能できるべきである。” API 2019 State of American Energy(米国のエネルギー情勢)報告書

表13:天然ガス関連の政策への企業の関与・働きかけの評価におけるベンチマークの適用例と採点の枠組み。

A.8 石油

石油関連のロビー活動の評価に用いる科学的分析に基づく政策ベンチマークの概要

将来のエネルギーミックスにおける石油の役割に関するIPCCの見解と整合していると企業が評価されるには、2020年から2050年というIPCCのガイダンスと一致するタイムラインを言及のうえ、エネルギーミックスに占める石油の割合を縮小するための厳格な政府介入を支持していることが条件となる。それに比べて、エネルギーミックスの低炭素化への移行に対する支持を表明しているものの、CCSを併設しない(unabated)化石燃料削減のタイムラインおよび度合いに関して曖昧性がある場合にはスコアは低くなる。エネルギーミックスにおける石油の長期的な役割を望ましいとする場合、あるいは温室効果ガスを大量に排出するエネルギー源からの移行に政府介入は不要だとする提言がある場合は、スコアはマイナスになる。エネルギーミックスにおける石油のより長期的あるいは拡大した役割をロックイン(固定)するリスクのある施策への支持を表明している場合は、最低のマイナススコアとなる。

IPCCの知見のキーポイント:

エネルギーミックスに関する政府の取り組み

“2℃から1.5℃の排出経路に移行するには、社会・技術的な移行を加速させるための強力かつ統合的な政策および導入規模の拡大、ならびにこの先何十年も温室効果ガス排出をロックイン(固定化)させる可能性のある現行システムの段階的廃止が必要になることを意味する(確信度が高い)。(中略)発表済みの学術論文は、1.5℃目標に沿った緩和の道筋は厳格かつ統合的な政策介入を要するであろうことを示している(確信度が非常に高い)。”(SR15、第2章2.5.1)

エネルギーミックスにおける石油の軌道

“一次エネルギーに占める再生可能エネルギーのシェアが拡大する一方で、石炭の使用は、オーバーシュートが無いもしくは限定的な地球温暖化を1.5℃に抑えるあらゆる排出経路において減少することになる(確信度が高い)。(中略)2020年から2050年にかけて一次エネルギー供給に占める石油の割合はほとんどの経路で減少する(四分位範囲−39〜−77%)。”(SR15、第2章、要旨)

“すべての1.5℃排出経路において、一次エネルギー供給に占める化石燃料のシェアは2020年から2050年にかけて低下するが、その動向は石油と天然ガス、石炭で異なる(表2.6)。オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃排出経路では、2050年までに一次エネルギーに占める石炭のシェアは0〜11%まで低下し、四分位範囲では1〜7%となる。2020年から2050年にかけて一次エネルギー供給に占める石油のシェアは、−93〜−9%(四分位範囲−77〜−39%)で推移する。”(SR15、第2章2.4.2.1)

表2.6|1.5℃排出経路における世界の一次エネルギー供給(シナリオ・データベースより) 一次エネルギーに占める石油の割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 34.81%; 2030 = 31.24%; 2050 = 12.89% |高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 33.79%; 2030 = 32.01%; 2050 = 16.22%(SR15、第2章2.4.2.1)

炭素集約型テクノジーのロックイン(固定化)および廃止

時間の経過と共に明らかに生じるこの地球物理学的なトレードオフに加え、温室効果ガス排出量削減をこの先数年にわたり遅らせることは、炭素集約型インフラへの経済的・組織的ロックイン、すなわち、一度導入すると段階的廃止が困難もしくはそのコストが高くつく炭素集約型のテクノロジーへの投資および使用を継続することになる(Unruh and Carrillo-Hermosilla, 2006; Jakob et al., 2014; Erickson et al., 2015; Steckel et al., 2015; Seto et al., 2016; Michaelowa et al., 2018)。さまざまな研究のモデル結果が示すところによると、温室効果ガス排出量削減が短期的に遅れながらも、厳しい気候目標を達成するには、炭素集約型インフラ、とりわけCCSを併設しない石炭火力発電を早期に廃止されることになる(Bertram et al., 2015a; Johnson et al., 2015)。(SR15、第2章 2.3.5)

化石燃料の採掘および発電への投資

“IAM研究は、1.5℃に整合する排出経路においては、2025年までに世界全体で低炭素エネルギーへの投資が化石燃料への投資を凌ぐと予測している(第2章2.5.2)。(中略)これに対して化石燃料の採掘およびCCSなし(unabated)の化石燃料による発電への投資は、1.5℃に整合する経路では2016年〜2050年の間に毎年0.3〜0.85兆米ドル減少し、CCSなしの石炭火力発電への投資は、1.5℃に整合する経路のほとんどにおいて2030年までに半減すると予測される。(第2章2.5.2)(SR15、第4章、要旨)

表14:石油に関する科学的分析に基づくベンチマークおよびIPCCの知見のキーポイント。

スコア

説明

適用例

事例

2+

企業が2050年までのエネルギーミックスにおける石油の役割に関するIPCCガイダンスと明らかに整合するアドボカシー(政策提言)を積極的に行っている。

企業が石油を含む化石燃料の段階的廃止を提言している。

企業がIPCCガイダンスに則して、2020年から2050年にかけて世界のエネルギーミックスにおける石油の役割の大幅な低下を提言している。

企業がエネルギーミックスにおいて石油を含むCCSなしの化石燃料へのロックインを招くリスクのあるインフラや投資、その他のシステムに反対している。

“The industrial strategy of the next European Commission must therefore be climate-proofed, in order to set out a pathway for energy-intensive industries which is consistent with the net-zero 2050 objective. It must be bold in terms of looking at the smoothest and most cost-effective way of phasing out fossil fuels over time and moving to a fully efficient and renewable-based energy system”. - IIGCC, EU Strategy for Long-Term Greenhouse Gas Emissions Reduction

“従って、エネルギー集約型産業のために2050年までのネットゼロ目標と整合する道筋を定めるためには、次回の欧州委員会の産業戦略は気候変動リスクへの耐性を備えていなければならない。化石燃料を段階的に廃止し、高効率かつ再生可能エネルギーに基づくエネルギーシステムに移行するのに最も円滑かつ費用対効果の高い方法を検討するにあたっては、大胆でなければならない。”IIGCC、長期的な温室効果ガス排出削減に向けたEU戦略

1+

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける石油の役割に関するIPCCガイダンスとほぼ整合している。

企業が世界のエネルギーミックスに占める石油の割合を縮小するための施策への支持を表明している。

企業が石油から低炭素・ゼロカーボンエネルギー源への移行を支持している。

“Economic stimulus packages should contribute to building a healthier, more resilient, net-zero-emissions economy For oil and gas producing countries and coal-rich economies, this crisis precipitates a transition that was already looming for the decade ahead. Fiscal stimulus could usefully be invested in an early phase-out of the least competitive assets, the diversification of their economy, and supportive measures for workers and regions which will be impacted by the transition”. - The Energy Transitions Commission, 7 Priorities to Help the Global Economy Recover, May 2020 (Signed by companies including BP, SSAB, and Allianz)

“景気刺激策は、より健康的かつレジリエント(強靭)なネットゼロエミッション経済を構築に寄与するものであるべきだ。(中略)石油・天然ガスの生産国および石炭の豊富な国(経済)にとっては、この危機は10年先に迫っていた移行を早めることになる。財政出動は、最も競争力が劣る資産の早期の段階的な廃止、経済の多角化、そして移行の影響を受けることになる労働者および地域への支援策に有効に費やすことができる。”エネルギー移行委員会(Energy Transitions Commission:ETC)、世界経済の回復に役立つ7つの優先事項](http://www.energy-transitions.org/sites/default/files/COVID-Recovery-Response.pdf)、2020年5月(BP、SSAB(サーブ)、Allianz(アリアンツ)ばなどの企業が署名

0

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける石油の役割に関するIPCCガイダンスに整合しているか不明瞭。

企業がIPCCのガイドラインと整合するエネルギーミックスにおける石油の割合の縮小を支持しているか不明瞭。

企業が石油から天然ガスおよび再生可能エネルギーを主軸とする電力への移行を支持している。天然ガスをエネルギー問題の長期的な解決策として見ているか不明瞭。

“世界はまた、石炭や石油などの高炭素の燃料から、天然ガスなどの低炭素の非再生可能エネルギー選択肢へと転換しなければならない。実際に、天然ガスは発電で一次エネルギーとして使用される化石燃料の中で最も低炭素であり、高効率ガスタービンは、風力や太陽光といった出力の変動するエネルギー資源による補完率がますます高まる世界の電力ネットワークを上手く機能させるために求められる柔軟性を提供する。”- General Electric(ゼネラル・エレクトリック)、企業ウェブサイト 2019年

-1

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおいて低下する石油の役割に関するIPCCガイダンスに整合していない。

企業がエネルギーミックスにおける石油からの脱却の経済的ないし技術的な実現可能性にまつわる懸念を強調しており、IPCCが提唱するよりも遅いペースでの低炭素化への移行を支持していることが示唆される。

企業が低炭素エネルギー源への転換に対する支持を表明しているが、それは市場原理に委ねられるのが理想的だと主張している。

企業がエネルギーミックスにおける石油の長期的な役割を望ましいとする見解を示している。

“Exxon(エクソンモービル)のウッズ氏は水曜日にダラスで開かれた定時株主総会にて、「社会は、経済成長、手頃な価格で安定したエネルギー、そして環境保全を強く望んでいる」と述べた。「私たちの役割は、人々が望んでいることと責任を持ってなし得ることとの間にあるギャップを埋める手助けをすることだと考えている。これこそが私が信じる持続可能性というものだ。」(中略)ウッズ氏はその発言の中で、世界が2040年に向けてエネルギー需要を満たすには、石油と天然ガスへの数兆ドルに及ぶ新規の投資が必要であり、たとえ政策当局者が地球温暖化を歴史的な基準値から2度未満の上昇に抑えるとしても、「すべてのシナリオにおいて石油と天然ガスは大きな役割を担い続ける」と語った。”エクソンモービルのダレン・ウッズCEO、ブルームバーグ紙、2018年5月

-2

企業が2050年までのエネルギーミックスにおいて低下する石油の役割に関するIPCCガイダンスに反対する姿勢を積極的に表明している。

企業がエネルギーミックスに占める石油の割合を縮小することに反対している。

企業がCCSなしの化石燃料を段階的に廃止するための政府によるエネルギーミックスへの介入に反対している。

企業がエネルギーミックスにおいて石油の役割のロックイン(固定)を招くインフラや投資、その他のシステムを支持している。

“米国商工会議所のGlobal Energy Institute(GEI)によって新たに発表された報告書は、反エネルギームーブメント「Keep it in the Ground” (KIITG)」が少なくとも919億ドル規模の国内経済活動を妨げ、73万人分近くの雇用機会を喪失させたことを明らかにした。(中略)反エネルギームーブメントによる極めて重要なエネルギーインフラへの反対は、雇用機会の喪失、そして数十億(ドル)に及ぶ国内経済活動の妨げというかなりの犠牲を伴うものである。”米国商工会議所プレスリリース

表15:石油関連の政策への企業の関与・働きかけの評価におけるベンチマークの適用例と採点の枠組み。

A.9 原子力

原子力関連のロビー活動の評価に用いる科学的分析に基づく政策ベンチマークの概要

将来のエネルギーミックスにおける原子力の役割に関するIPCCの見解と整合しているかどうかの評価は、原子力に関する企業の見解および将来のエネルギーミックスに関するより広範な見解を考慮に入れるものである。企業が2020年から2050年を見据えたIPCCのガイダンスに則して、CCSを併設しない(unabated)化石燃料の段階的廃止および再生可能エネルギーを主力とするエネルギーシステムへの移行を支持するという広範な見解を表明しつつ、原子力を支持している場合には、IPCCのガイダンスに最も沿っていると見なされる。それに比べて、原子力への支持を表明しながらも、広範囲にわたる脱炭素化への移行に関して曖昧性がある場合にはスコアは低くなる。現在、決定日と新規の原子力発電所の運転開始日との間にタイムラグがあることから、原子力の規模拡大次第として移行の延期を支持している場合は、スコアはマイナスになる。同じく、原子力を再生可能エネルギーの代替電源、あるいはCCSなしの化石燃料(石炭や天然ガスなど)のパートナーとして見るような提言をしている場合も、スコアはマイナスになる。また、再生可能エネルギーおよび原子力を含め、ゼロカーボンのエネルギーミックスへの移行に反対している場合もマイナスのスコアがつけられる。

IPCCの知見のキーポイント:

エネルギーミックスに関する政府の取り組み

“2℃から1.5℃の排出経路に移行するには、社会・技術的な移行を加速させるための強力かつ統合的な政策および導入規模の拡大、ならびにこの先何十年も温室効果ガス排出をロックイン(固定化)させる可能性のある現行システムの段階的廃止が必要になることを意味する(確信度が高い)。(中略)発表済みの学術論文は、1.5℃目標に沿った緩和の道筋は厳格かつ統合的な政策介入を要するであろうことを示している(確信度が非常に高い)。”(SR15、第2章2.5.1)

エネルギーミックスにおける原子力の軌道

“一次エネルギーに占める再生可能エネルギーのシェアが拡大する一方で、石炭の使用は、オーバーシュートが無いもしくは限定的な地球温暖化を1.5℃に抑えるあらゆる排出経路において減少することになる(確信度が高い)。(中略)一次エネルギーのうちバイオマスは2050年には40〜310 EJ /年(最低〜最高値)、そして原子力は3〜66 EJ /年(最低〜最高値)を供給することになる。これらの数値の範囲は、技術的な発展および戦略的な緩和策ポートフォリオの選択肢の確実性を反映している。”(SR15、第2章、要旨)

“本セクションにて評価する1.5℃排出経路において、いくつかのエネルギー供給の特徴が顕著に見られる:(i)低炭素電源(再生可能エネルギー、原子力、およびCCS を伴う化石燃料を含む)のシェアが拡大し、CCSなしの化石燃料のシェアが低下する(2.4.2.1節)、(ii)最終エネルギー消費の電力化がさらに進むと同時に発電の炭素集約度が急減する(2.4.2.2節)、(iii)ほとんどの1.5℃排出経路において、化石燃料およびバイオマスに付設されるCCSの使用が増える。”(SR15、第2章 2.4.2)

“ほとんどの1.5℃排出経路において、今世紀半ばまでに一次エネルギー供給の大部分を非化石燃料(再生可能エネルギーや原子力など)が占めるようになる(表2.6)。(中略)原子力のシェアは、オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃排出経路のほとんどにおいて拡大するが、一部の経路では、原子力発電の設備容量およびシェアは共に縮小する(表2.15)。モデルと経路とでは原子力の役割に大きな相違がある(Kim et al., 2014; Rogelj et al., 2018)。この差異の理由の一つとして、原子力の将来の導入が、経路の基礎をなすナラティブにおいて想定される社会的選好によって制約される可能性があることが挙げられる(O’Neill et al., 2017; van Vuuren et al., 2017b)。オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃排出経路の一部では、今世紀末までに核分裂の役割は途絶え、その一方で、2100年にはその他の原子力プロジェクトがおよそ95EJ/年の発電量を供給する(図2.15)。”(SR15、第2章2.4.2.1)

表2.6|1.5℃排出経路における世界の一次エネルギー供給(シナリオ・データベースより)

一次エネルギーに占める原子力の割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 12.09%; 2030 = 14.33%; 2050 = 8.10% |高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 1.86%; 2030 = 2.99%; 2050 = 4.17%(SR15、第2章2.4.2.1)

表2.7|1.5℃排出経路における世界の発電量(シナリオ・データベースより)

発電量に占める原子力の割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 32.32%; 2030 = 7.28%; 2050 = 0.82%|高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 10.91%; 2030 = 14.65%; 2050 = 11.19% (SR15、第2章2.4.2.1)

“世界の気温上昇を産業革命前の水準から1.5℃に抑えるために必要とされるエネルギーシステムの転換が世界各地の数々のセクターにおいて進められている(中程度のエビデンス、高い同意率)。太陽光、風力、および蓄電技術の政治・経済・社会・技術的な実行可能性は、過去数年間で大きく高まっているが、その一方で、電力セクターにおける原子力および二酸化炭素回収貯留(CCS)は同様の向上を見せていない。”(SR15、第4章、要旨)

第2章およびAR5(IPCC第5次評価報告書)のシナリオの多くは(Bruckner et al., 2014)原子力の使用が増えると予測する一方で、その他(のシナリオ)は減少すると予測している。その増加は現行の成熟した技術ないし新たなオプション(第3・4世代原子炉、増殖炉、新ウランおよびトリウム燃料サイクル、小型原子炉、あるいは原子力コジェネレーション)によってなし得る。原子力発電所は多くの国において歴史的に早い速度で拡大してきたが、現在、そのような速度は達成されていない。1960年代および1970年代にフランスは、約25年で電力の80%を原子力で賄うプログラムを導入したが(IAEA, 2018)、その決定日と発電所の運転開始日との間に現在10〜19年のタイムラグが生じている(Lovins et al., 2018)。(SR15、第4章 4.3.1.3)

表16:原子力に関する科学的分析に基づくベンチマークおよびIPCCの知見のキーポイント。

スコア

説明

適用例

事例

2+

企業が2050年までのエネルギーミックスにおける原子力の役割に関するIPCCガイダンスと明らかに整合するアドボカシー(政策提言)を積極的に行っている

企業が原子力による補完および再生可能エネルギーを支持し、化石燃料の段階的廃止を提言している。

企業が原子力によって支えられた再生可能エネルギーを主力とするエネルギーミックスへの移行を促進するインフラや投資、その他のシステムを支持している。

企業が原子力によって補完する再生可能エネルギーを主力とするエネルギーミックスへの移行を後押しする厳格な政策を伴う政府介入の必要性を提言している。

企業が2050年までの世界の電力セクターの脱炭素化に向けた移行に明らかに沿った見解を表明している。

ネットゼロを達成するために、イギリスの電力は将来的には低炭素電気で賄われることになる。バッテリーがディーゼルおよびガソリンエンジンに取って代わり、ヒートポンプがガスボイラーに取って代わる。そして、水素の役割が拡大するにつれ、それを生産するための電力が必要になる。気候変動委員会は、低炭素電気の発電量を現在に比べて4倍にする必要があると推定している。その大部分は風力と太陽光によるものとなる。(中略)気候変動委員会は、再生可能エネルギーおよびバッテリーを最大限に活用するためには、イギリスは「安定した」もしくは「常時供給できる」低炭素電力を必要とすると主張する。(中略)原子力はその必要を満たす。そのうえ、今日それをなせる実証されたテクノロジーは他にない。再生可能エネルギーとストレージ、そして原子力を組み合わせることで、消費者への電力コストを最小化する、柔軟かつ安定したシステムを構築することができる。”EDFエナジー会長&プリンスオブウェールズ企業リーダーズ・グループ(The Prince of Wales's Corporate Leader's Group)副議長コリン・マシューズ氏、ブログ記事、2020年7月

1+

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける原子力の役割に関するIPCCガイダンスとほぼ整合している。

企業がエネルギーミックスにおける再生可能エネルギー、原子力、およびその他のゼロカーボンエネルギー・テクノロジーの役割の拡大を支持している。

企業が再生可能エネルギーおよびその他のゼロカーボン・テクノロジーへの移行を後押しするための原子力の長期的な貢献を支持している。

企業が再生可能エネルギーおよび原子力への移行を後押しするための政府によるエネルギーミックスへの介入の必要性について発言している。

“カーボンフリーのメガワットはどれも気候変動と戦うのに同等の価値があります。皆が競争すれば、最も低価格のエネルギー源が勝ちます。最もグリーンかつ低価格であるがゆえに、再生可能エネルギーや原子力、炭素回収、あるいは蓄電プロジェクトが勝つテクノロジー・インクルーシブ(あらゆる技術を取り入れた)な市場を想像してみてください。”NRG Energy、アブラハム・シルバーマン氏、上院公聴会での証言、2019年4月

0

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける原子力の役割に関するIPCCガイダンスに整合しているか不明瞭。

企業がエネルギーミックスにおける原子力の長期的な役割を支持しているが、ゼロエミッション・エネルギーシステムへの完全移行における原子力の役割をどのように見ているか不明瞭あるいは曖昧。

原子力を支持しているが、エネルギーミックス全般に関する見解が不明瞭。

企業が再生可能エネルギーおよび原子力の増加を含めたエネルギー転換経路を支持している。だが、移行のペースと度合い、またIPCCの提言との整合性に関して曖昧性がある。

“2030年の総発電量に占める原子力の割合を20〜23%にするという目標に貢献するためには、安全であると確認されている原子力発電所の再稼働を推進することが重要である。”日本原子力産業協会(JAIF)、会長による新年の挨拶、2017年1月

-1

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける原子力の役割に関するIPCCガイダンスに整合していない。

企業が原子力の規模拡大と導入を可能にするために、低炭素なエネルギーミックスへの移行の長期化を支持しているように見受けられる。

企業がエネルギーミックスにおける原子力の長期的な役割を支持しているが、再生可能エネルギーへの移行の代替案として見ているように思われる。

企業がエネルギーミックスにおける原子力の長期的な役割を支持しているが、例えば天然ガスなどの温室効果ガスを排出するエネルギー源も併せて支持しているように思われる。

企業がエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーおよび原子力への転換を支持しているが、それは市場原理に委ねるべきだと提言している。

“気候変動政策は、次のようであるべきだと考えている。単に価格を強制したり、特定のエネルギーミックスを規定したりするのではなく、代償を最小限にしてゼロカーボン軌道を奨励すべきであり、手頃な価格で電力を安定供給できる原子力および天然ガスによる発電がこの先も欠かせないことを認識すべきである。” Duke Energy(デュークエナジー)、気候レポート、2020年

-2

企業が2050年までのエネルギーミックスにおける原子力の役割に関するIPCCガイダンスに反対する姿勢を積極的に表明している。

企業が原子力の役割を含め、ゼロカーボン・エネルギーミックスへの移行に反対している。

企業がエネルギーミックスにおける原子力の長期的な役割を支持しているが、差し当たっては石炭の役割を支持している。

企業が天然ガスや石炭などのCCSなしの化石燃料と併せて、エネルギーミックスにおける原子力の長期的な役割を支持している。

企業がエネルギーミックスにおける原子力の役割を支持しているが、再生可能エネルギーへの移行に反対している。

企業が原子力によって補完する再生可能エネルギーを主力とするエネルギーミックスへの移行を阻止する可能性のあるインフラや投資、その他のシステムを支持している。

企業が原子力によって補完する再生可能エネルギーを主力とするエネルギーミックスへの移行を確実に行うための政府介入の必要性を否定している。

“GEは、従来型エネルギーと再生可能エネルギーを組み合わせた強力なエネルギーインフラを支持している。上述のように、二酸化炭素排出を削減するために再生可能エネルギーと原子力の使用を助長し、必要とされる安定性と柔軟性のある発電を保証する天然ガス技術と再生可能エネルギーの統合を促進し、また状況に応じて、低効率なエネルギー源を効率的な最先端の石炭火力発電へと置換する機会をサポートする。” General Electric(ゼネラル・エレクトリック)、気候変動に関する声明2019年

表17:原子力関連の政策への企業の関与・働きかけの評価におけるベンチマークの適用例と採点の枠組み。

A.10 Renewables

再生可能エネルギー関連のロビー活動の評価に用いる科学的分析に基づく政策ベンチマークの概要

将来のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの役割に関するIPCCの見解と整合していると企業が評価されるには、2020年から2050年というIPCCのガイダンスと一致するタイムラインを言及のうえ、エネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの割合を大幅に増加するための厳格な政府介入を支持していることが条件となる。それに比べて、再生可能エネルギーの増加を支持しているものの、タイムラインおよび度合いに関して曖昧性がある場合にはスコアは低くなる。例えば化石燃料などのその他の電源がエネルギーミックスにおいて主力であり続けるために、再生可能エネルギーへの移行は、より遅いペースで進められるべき、市場原理に委ねられるべき、あるいは限定的であるべきという提言がある場合は、スコアはマイナスになる。再生可能エネルギーを即時的に増加させるための施策への反対を表明している場合は、スコアは大きくマイナスになる。

IPCCの知見のキーポイント:

エネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの軌道

“オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃排出経路では、2050年には再生可能エネルギーが電力の70〜85%(四分位範囲)を供給すると予測される(確信度が高い)。”(SR15、政策当局者向けの要約2.2)

“一次エネルギーに占める再生可能エネルギーのシェアが拡大する一方で、石炭の使用は、オーバーシュートが無いもしくは限定的な地球温暖化を1.5℃に抑えるあらゆる排出経路において低下することになる(確信度が高い)。オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃の排出経路においては、2050年までに再生可能エネルギー(バイオマス、水力、風力、太陽光など、一次エネルギー評価方法(direct equivalence method)にて)が一次エネルギーに占めるシェアは52〜67%(四分位範囲)になる。その一方で、石炭のシェアは1〜7%(四分位範囲)まで低下し、その大部分は二酸化炭素回収貯留(CCS)を伴うことになる。”(SR15、第2章、要旨)

“オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃排出経路では、再生可能エネルギーの電力供給シェアは2050年までに59〜97%(最低〜最高値)まで拡大する。地球温暖化を1.5℃未満に抑える可能性の高い経路では全般的に、2030年までの電気の炭素集約度の低下の速度が、一時的に1.5℃を超える(オーバーシュートする)経路よりも速くなる。”(SR15、第2章、要旨)

“1.5℃および2℃の排出経路においてIAMが予測するさまざまな再生可能エネルギーのシェアを上回る、100%再生可能エネルギーシナリオに関する論文がますます多く発表されている(例えばCreutzig et al., 2017; Jacobson et al., 2017を参照)。IAMにおける再生可能エネルギーの潜在量、テクノロジーコスト、およびシステム統合はAR5以降更新されており、多くのケースにおいて再生可能エネルギー導入量が増加しているが(Luderer et al., 2017; Pietzcker et al., 2017)、IAMの予測の中で、費用対効果に優れた緩和の道筋の一環として100%再生可能エネルギーを世界のエネルギーシステムの解決策と見なしているものは一つもない。”(SR15、第2章2.1.4)

“ほとんどの1.5℃排出経路において、今世紀半ばまでに一次エネルギー供給の大部分を非化石燃料(再生可能エネルギーや原子力など)が占めるようになる(表2.6)。(SR15、第2章2.4.2.1)

表2.6|1.5℃排出経路における世界の一次エネルギー供給(シナリオ・データベースより)

一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 14.90%; 2030 = 29.08%; 2050 = 60.24% |高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 15.08%; 2030 = 23.65%; 2050 = 62.16%(SR15、第2章2.4.2.1)

表2.7|1.5℃排出経路における世界の発電量(シナリオ・データベースより)

発電量に占める再生可能エネルギーの割合(%)|低いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 26.32%; 2030 = 53.68%; 2050 = 77.12%|高いオーバーシュートを伴う1.5℃排出経路:2020 = 28.37%; 2030 = 42.73 %; 2050 = 82.39% (SR15、第2章2.4.2.1)

“オーバーシュートが無いもしくは限定的な1.5℃排出経路では、再生可能エネルギーの電力供給シェアは2015年の23%から2050年までに59〜97%(最低〜最高値)まで拡大する。2050年には風力、太陽光、そしてバイオマスが共に大きく貢献するが、それぞれのシェアは1.5℃排出経路によってさまざまである(表2.16)。その一方で、電力供給における化石燃料の役割は低下し、そのシェアは2050年までに0〜25%まで縮小する(表2.7)。”(SR15、第2章2.4.2.2)

表18:再生可能エネルギーに関する科学的分析に基づくベンチマークおよびIPCCの知見のキーポイント。

スコア

説明

適用例

事例

2+

企業が2050年までのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの役割に関するIPCCガイダンスと明らかに整合するアドボカシー(政策提言)を積極的に行っている。

企業が2030年までに電力セクターにおける再生可能エネルギーへの移行を確実に行うために行動を起こすよう提言している。

企業が電力セクターにおける再生可能エネルギーへの完全移行を支持している。

企業がIPCCガイダンスに則して、2020年から2050年にかけて世界のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの役割の大幅な拡大を提言している。

企業が再生可能エネルギーを主軸とするエネルギーシステムへの移行を促進するインフラや投資、その他のシステムを支持している。

企業がエネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの割合を増加するための厳格な政策を伴う政府介入の必要性を提言している。

企業が2050年までの世界の電力セクターの脱炭素化に向けた移行と明らかに一致する見解を表明している。

気候変動の緩和に向けて地球をパリ協定のコース上に維持するには、再生可能エネルギー電源に完全転換しなければならない。” フィリップスライティングの持続可能性、環境、健康、安全の責任者であるニコラ・キム氏によるコメント

1+

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの役割に関するIPCCガイダンスとほぼ整合している。

企業が再生可能エネルギーへの転換に対する支持を表明している。

企業が電力セクターの脱炭素化への支持を表明している。

企業が再生可能エネルギーへの移行を後押しするための政府介入の必要性について発言している。

“Increasing the deployment of renewable energy resources is valuable for the planet, good for business, and important for our customers. As part of our sustainability efforts, Amazon advocates in support of public policy that advances access to and the expansion of clean energy. We will continue to promote policies that support renewable energy to power our operations.” - Amazon Corporate Website

“再生可能エネルギーの導入を拡大することは、地球にとって大切であり、ビジネスにとって有益であり、また当社のお客様にとって重要です。持続可能性への取り組みの一環として、アマゾンはクリーンエネルギーへのアクセスおよびその拡大を促進する政策を支持しています。今後も引き続き、再生可能エネルギーによる事業運営を助長する政策の推進に向けて提言していきます。” Amazon(アマゾン)企業ウェブサイト

0

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの役割に関するIPCCガイダンスに整合しているか不明瞭。

企業がエネルギーミックスに占める再生可能エネルギーの割合の増加を支持している。移行のペースと度合い、またそれを後押しするための政策の必要性についての見解が曖昧。

“豊富でクリーン、かつ効率的で、ますます競争力を高めている#wind energy(風力)は、#EnergyTransition(エネルギー転換)において重要な役割を担っています!イギリスとフランスにて新規プロジェクトを立ち上げ、欧州における風力発電技術の進歩発展に尽力しているのはそのためです。”Total SA(トタル)、ツイッター、2020年6月

-1

企業の見解が2050年までのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの役割に関するIPCCガイダンスに整合していない。

企業が例外を設けつつ再生可能エネルギーの増加を支持している。IPCCが提唱するよりも遅いペースでの移行を支持しているように見受けられる。

企業がエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーに対する支持を表明しているが、再生可能エネルギーを主力電源とする転換は支持していないように見受けられる。

企業が再生可能エネルギーへの転換の技術的ないし経済的な実現可能性に対する懸念を強調しており、その他のエネルギー源を望ましいとしていることが示唆される。

企業が再生可能エネルギーへの転換を支持しているが、それは市場原理に委ねるべきだと提言している。

“We need a faster transition to a low-carbon energy system and a net-zero-emissions world. ... But a growing, more prosperous world needs growing quantities of energy, and that includes oil and gas. Today, one billion people lack the energy they need, and renewables alone can’t meet those needs.” -BP CEO Bob Dudley, Oct 2019

“低炭素エネルギーシステムおよびネットゼロ世界への早期な移行を必要としている。(中略)しかし、世界が成長し続け、より繁栄するためには、エネルギー量が増加していく必要があり、それには石油と天然ガスも含まれる。今日、10億人もの人々が必要なだけエネルギーを得られておらず、再生可能エネルギーのみでそうした必要を満たすことはできない。” BP CEOボブ・ダッドリー氏、2019年10月

-2

企業が2050年までのエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの役割に関するIPCCガイダンスに反対する姿勢を積極的に表明している。

企業が2030年までに再生可能エネルギーの役割を拡大するための早急な取り組みに反対している。

企業がIPCCガイダンスに則し、2020年から2050年にかけて再生可能エネルギーを主力とするエネルギーミックスに移行する必要性を否定している。

企業が再生可能エネルギーへの移行を後押しするインフラや投資、その他のシステムに反対している。

企業が再生可能エネルギーへの移行を確実に行うための政府介入の必要性を否定している。

“「この新たな石炭火力発電ユニットは、次世代の石炭火力発電所が効率性を上げ、炭素を削減し、また他の燃料に対抗して安定性のある手頃な価格の電力を提供できることを実証するのに役立つ」と、米国クリーンコール電力組合(American Coalition for Clean Coal Electricity:ACCCE)のミシェル・ブラッドワース会長兼最高経営責任者(CEO)は述べた。ACCCEは先月、報告書にてそれを主張する根拠を提示した。10ページからなる白書は、石炭が競合できるようにするために、再生可能エネルギーおよび原子力の税額控除と、州の再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準の廃止を要請している。” E&E News、2019年4月

表19:再生可能エネルギー関連の政策への企業の関与・働きかけの評価におけるベンチマークの適用例と採点の枠組み。

B.1 投資家の期待を基準に企業の情報開示を評価

気候変動政策への企業の関与・働きかけは、総額40兆ドルに及ぶ資産を保有する450にのぼる機関投資家を束ねる「クライメート・アクション100+(ClimateAction 100+:CA100+)」の企業エンゲージメント・プロセスの戦略的要素となっている。今後はより広範に企業セクターに対して、同様のエンゲージメントが行われるものと見られる。

UN PRIIIGCCCERESなどの投資家グループ数団体が企業に対して期待する気候変動政策への関与・働きかけプロセス管理のあり方を明確化している。これらの投資家の期待は、各投資家が企業に求める事柄とおおよそ一致しており、要約すると以下のようになる。

  • パリ協定と整合する提言:気候変動政策に対してパリ協定に沿った立場をとり、それに応じて働きかけを行う。

  • 政策関与プロセスの整合性:気候変動政策への関与・働きかけのプロセスおよび経済・業界団体との繋がりに関して優れたガバナンスを実施し、企業が表明する気候変動への取り組み目標と政策への働きかけとを一致させる。

  • 情報開示:気候変動政策に関する見解や政策への働きかけ、経済・業界団体との繋がり、働きかけと目標のズレ、そしてその是正計画に関して完全な透明性を確保する。

こうしたプレッシャーを受け、現在、より多くの企業が経済・業界団体のスタンスとの整合性の確認に重点を置きつつ、気候変動政策への関与を自己評価し、情報開示している。BHPが2017年に経済・業界団体のレビューを公表して以来、Anglo American(アングロ・アメリカン)、Shell(ロイヤル・ダッチ・シェル)、BASF、BPなどの大企業約15社が投資家からの圧力に応じる形で、経済・業界団体との繋がりに関して同様の情報開示を実施もしくは約束しており、そうした企業の数は2020年にはさらに増えると見込まれている。もしこれらの開示が投資家の期待に沿わなかった場合には、この前向きなモメンタム(勢い)は損なわれることになる。

この新たな動向を受けてインフルエンスマップは、経済・業界団体との繋がりおよびそのガバナンス体制に関する企業の情報開示を評価するための新たな枠組みを開発した。これは気候変動政策への関与・働きかけに関する投資家の期待の「情報開示」および「政策関与プロセスの整合性」という側面をベンチマークとして、評価するものである。

B.2 情報開示の評価

国連PRIの「企業の気候変動ロビー活動をめぐる投資家の期待」に関する報告書は、企業が気候変動政策に対する自社の見解および働きかけの内容に加えて、所属する経済・業界団体の見解および働きかけの内容についても開示する必要があることを強調している。また、こうした働きかけと企業が表明する気候変動への取り組み目標とを一致させるために導入されたガバナンス・プロセス、ならびに講じられた措置についても開示されるべきであるとしている。IIGCCCERES は同様の期待を明示すると共に、企業に対して、自社が公にする見解に反する団体による政策への働きかけの重大な影響を評価し、その結果を開示するよう求めている。インフルエンスマップは、投資家の期待に基づく4つの主眼点に照らして、企業が提供する情報の明確性、正確性、および範囲を評価するために次のような評価基準を開発した。

開示事項

インフルエンスマップの評価基準

気候変動政策に対する企業の見解および働きかけの内容

  • 気候変動政策に対する企業自身の見解、および企業が発信する「表向きのメッセージ」から逸脱した働きかけの内容について詳細かつ明確に説明されているか?それには特定の法案や規制に対する企業の見解および働きかけの内容についての説明も含まれているか?

  • 企業が意図的に実施する第三者団体を通じた特定の政策への働きかけについて開示しているか?

気候変動政策に対する経済・業界団体の見解および働きかけの内容

  • 企業が自身の所属する経済・業界団体のうち、気候変動関連の政策への働きかけを行っている団体をすべて把握し、開示しているか?

  • 各経済・業界団体の気候変動政策に対する見解、および団体が発信する「表向きのメッセージ」から逸脱した働きかけの内容について透明性をもって的確に説明しているか?特定の法案や規制に対する団体の見解および働きかけの内容についても明瞭に説明されているか?

整合性の評価方法

  • 企業が所属する経済・業界団体による政策への働きかけのうち、自社と関連のあるすべての政策分野にわたって、自社の見解との整合性を評価するための論理的な枠組みを定めているか?その枠組みは企業が所属するすべての経済・業界団体に対して、一貫性をもって適用されているか?

  • 企業が各経済・業界団体の評価の背景について明瞭かつ詳細に説明しているか?それには自社の見解に反する団体による気候変動政策への働きかけの影響の評価も含まれているか?

政策関与と企業の見解のズレに対処するための枠組み

  • 企業が所属する経済・業界団体による気候変動政策への働きかけと自社の見解との間に生ずるズレに対処するための明瞭な枠組みを定めており、それにはズレを是正しない団体に対する段階的措置および明確な期日も含まれているか?

  • 企業が実施を約束しているそれらの措置は透明性があるか、あるいは第三者評価(レビュー)が可能か?ズレ是正の進展状況を定期的に報告するための仕組みがあるか?

表20:インフルエンスマップによる投資家の期待に則した企業の情報開示の評価基準。

B.3 政策関与にまつわるズレ是正の進展を評価

IIGCC、CERES、および国連PRIの投資家の期待は、透明性のある情報開示に加えて、気候変動政策に関して企業が公にする見解と所属する経済・業界団体の見解および働きかけとを一致させるための頑強なプロセスの必要性についても概説している。

そのプロセスを以下に記述する。

  • まずは、経済・業界団体による気候変動政策への関与・働きかけの内容を把握し、気候変動に対する企業自身の見解との整合性を評価する。

  • 継続的に、経済・業界団体による気候変動政策への関与・働きかけを監視(モニター)・レビューする。

  • 経済・業界団体による気候変動政策への関与・働きかけと自社の見解との間にズレが生じた際には対処する。

インフルエンスマップは以下のような枠組みに沿って、経済・業界団体とのズレの是正に向けた企業の取り組みの進展度合いを評価している。

主眼点

説明

同分野において投資家の期待におおよそ沿っている。

同分野において投資家の期待に沿うべく進展が見られるものの、期待からは大きく外れている。

同分野において投資家の期待に背いている。

表21:経済・業界団体とのズレの是正に向けた企業の取り組みの進展度合いの評価に用いられるインフルエンスマップの枠組み。

インフルエンスマップは、気候変動政策に関する企業および経済・業界団体の見解の経時的変化を随時評価するために独自のデータベースを用いている。インフルエンスマップによる評価結果は、同じ期間に企業自身によって行われた経済・業界団体のレビュー結果と比較される。次節ではBHPを例にとって、そのプロセスを説明する。

B.4 インフルエンスマップによるBHPの評価

BHPによる情報開示の評価

インフルエンスマップによるBHPの2019年度経済・業界団体レビュー の評価結果を以下に要約する。

企業が気候変動政策に対する自社の見解および働きかけの内容について、透明性をもって情報開示しているか?BHPの経済・業界団体レビューは、主として国家レベルまたは拘束力のない政策課題に関する大まかな見解のみを開示している。それには特定の規制および法案に関する企業の見解や、直接的あるいは経済・業界団体を通じてどのような働きかけを行っているかについての詳細な説明は含まれていない。

企業が所属する経済・業界団体の気候変動政策に対する見解および働きかけの内容について、透明性をもって情報開示しているか?BHPによる所属の経済・業界団体の気候変動政策に対する見解および働きかけの開示は、透明性に欠けている。同社は、会員となっている経済・業界団体のうち、気候変動政策アジェンダへの働きかけを行っている主要団体のほとんどについて言及しているように見受けられる。だが、インフルエンスマップの評価が示すところによると、BHPのレビュープロセスは総体的に見て、経済・業界団体による気候変動政策への働きかけと自社の見解のズレの判断に用いるデータポイントの選択に非常に偏りがある。

企業が整合性の評価プロセスを一貫性をもって適用し、また透明性をもって情報開示しているか?BHPは、独自の整合性評価手法についてある程度詳細に説明している。しかし、同社のレビュー報告書は、その評価プロセスがそれぞれの経済・業界団体および政策課題にどのように適用されているかについては一貫性をもって情報開示していない。そのため、政策に対する見解と働きかけの内容が似通っているにも関わらず、BHPがズレがあると見なしている団体とそうでない団体が存在する理由の把握が困難である。

企業がズレに対処するための枠組みを透明性をもって開示しているか?BHPは、自社の見解と所属する経済・業界団体との見解との間に生ずる重大な相違点に対処するための数々の措置を伴う枠組みを開示している。また、どの団体に対して、どの措置を講じるかについても定めている。しかし、業界団体の理事との話し合いなど、プライベートに行われる措置を重視しており、それらの内容についてBHPがどの程度まで徹底かつ透明性をもって報告するつもりなのか不明である。

B.5 BHPによる政策関与にまつわるズレ是正の進展を評価

表22は、所属する経済・業界団体の見解・働きかけとのズレに対するBHPの是正処置プロセスの大枠を、投資家の期待に照らして評価するものである。

評価項目

スコア

把握&評価

BHPは、整合性評価に使用するデータポイントを選り好みしているように見受けられる。同社は、経済・業界団体が表向きに発する気候変動政策への見解に重点を置いており、パリ協定の目標の達成に向けたIPCCの科学に基づくガイダンスに相反するように思われる、時として重要なエビデンスを把握していない。それゆえに、BHPによる評価は、同社が表明するパリ協定の目標達成に対する支持と所属する経済・業界団体による気候変動政策への働きかけとの間に生じているズレをかなり低く見積もっているように見受けられる。

監視(モニター)&レビュー

株主からの要望を受け、BHPは所属する経済・業界団体を何度かレビューし、結果を更新しているが、それらの団体による政策への働きかけを監視(モニター)する同社のプロセスは詳細にまで及んでおらず、レビュー期間中に継続して行われている後ろ向きな働きかけの数々の事例をとらえていないように見受けられる。

対処

2017年のレビューにて、BHPはズレを是正するために講じた措置を開示しているが、インフルエンスマップの分析が示すところによると、それらの対応処置は主要な経済・業界団体による気候変動政策への働きかけを実質的に是正するには至っていない。BHPは、これらの継続するズレを大きく是正するために段階を追って措置を講じることを約束しておらず、それどころか豪州鉱業評議会(MCA)を例にとると、以前のズレは解消されたとしている。

表22:インフルエンスマップによる、経済・業界団体とのズレに対するBHPの是正処置プロセス評価。

表23は、BHPによる経済・業界団体の是正に向けた取り組みの進展の目安として、BHPによる整合性評価と、インフルエンスマップが2017年より実施してきたBHPの所属する主要な経済・業界団体による気候変動政策への関与・働きかけの評価結果を照合するものである。ハイパーリンクを通じて、インフルエンスマップのウェブサイト上で各団体の分析表にアクセスできる。

主要な経済・業界団体

インフルエンスマップのグレード

2017

2020

X – ズレが確認されており、その是正に向けてさらなる措置を講じることを約束

X – 退会

✓ – ズレが解消されたと判断

表23:BHPによる経済・業界団体の是正に向けた取り組みの進展度合い。