日本の業界団体と気候変動政策

パリ協定に基づく気候変動政策に対する業界団体と企業の動向

2022年11月



日本の重工業セクターを代表する業界団体は、依然としてパリ協定に整合した日本の気候変動政策の行く手をさまたげ、再生可能エネルギーへの移行を遅らせていることが示された。本研究の結果は、日本鉄鋼連盟電気事業連合会日本自動車工業会と、それらが主要会員として所属する日本経済団体連合会とともに、日本の気候変動政策に対してパリ協定と整合していない働きかけを戦略的に行っていることを示している。これらの団体は、政府の2050年カーボンニュートラル目標を支持する姿勢と、炭素税などの政策に反対し、火力発電を支持し続ける実際の行動は乖離しているように見受けられる。

本報告書は、「企業による気候変動政策関与-日本プラットフォーム」の公開に合わせて、2020年に発表されたInfluenceMapの報告書「日本の経済・業界団体と気候変動政策」の改訂版である。日本プラットフォームは、日本の気候変動政策への積極的な関与を促進するために作られたツールであり、プラットフォーム内の情報は定期的に更新される。

  • 重工業セクターの戦略的な政策関与は日本の気候・エネルギー政策課題に大きな影響を与えているが、日本経済の大部分を占める、気候変動対策に前向きな企業の目標や戦略とは相容れない。ヘルスケア、小売、金融、消費財などは、気候変動対策に前向きな見解を示し、日本の経済と雇用の70%以上を占めている。一方で、重工業セクターのそれは15%以下であるにも関わらず、気候変動政策に関する高い発言力を保持している。

  • 日本において、気候変動・エネルギー政策への産業界による働きかけに、より広範囲にわたるを業界の意見を反映させるには、政策課題をめぐる経済・業界団体と政府との関わり合いのあり方の改革や、経団連の意思決定プロセスの透明性とガバナンス改善が必要だと思われる。また、日本経済の中核をなす小売、金融サービス、物流(ロジスティクス)、建設、不動産などのセクターを代表する業界団体が、様々な気候変動関連の政策に対してより積極的に働きかけを行い、それらの政策に関する見解と気候変動対策の目標をより明確に示していくことが重要である。

  • 日本では、ほとんどの政策関与が大規模な経済・業界団体を通じて行われているが、ソフトバンクグループ武田薬品工業 をはじめとする個々の大企業も以前より積極的に政策に関与するようになってきた。ソフトバンクグループの完全子会社であるSBエナジーと武田薬品工業は、気候変動に前向きな企業が225社以上参加する日本気候リーダーズ・パートナーシップ(以下、JCLP)の会員であり、野心的な気候変動政策の策定を後押ししている。

  • 進展の兆しも見られる。JCLPの会員数が増加し、温室効果ガス排出目標、再生可能エネルギー目標および法規制、排出権取引および炭素税等に関する様々な野心的な提言が行われている。また不動産協会は、低炭素で効率的な建物に関する政策の実施を政府に求めている。多業種の企業経営者の声を代表する経済同友会は、第6次エネルギー基本計画における再生可能エネルギー目標に、さらなる野心が必要であると明言した。

  • これらは、InfluenceMapが日本で行った分析結果の一部である。詳細は「企業による気候変動政策関与 - 日本プラットフォーム」に集約されている。このプラットフォームは、日本で最も重要な50の業界団体と20の大企業を網羅し、日本国内における気候変動政策への影響力に関する唯一の包括的なデータベースである。投資家、市民団体、メディア、政策立案者、そして企業自身が、最新の気候・エネルギー政策の動向を追い、脱炭素化への取り組みに役立つために、このプラットフォームは作成された。 炭素税、エネルギー目標、電力政策など、気候・エネルギー政策についての、昨今の課題に対する各企業の立場を、 InfluenceMap は引き続き分析し、このプラットフォームに反映させていく。

  • 日本企業に投資するグローバルな投資家は、ごく一部の産業界の働きかけが、日本全体の気候変動政策への取り組みを遅らせていることに対して懸念を抱き続けるものと見られる。投資家の懸念は、投資家連合(PRIなど)によって表明されている。また、Climate Action 100+ (以下、CA100+)イニシアティブに参加する投資家による企業とのエンゲージメントの中で気候変動政策への関与が主な論点の1つになっている。

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Climate lobbying for policies aligned with the Paris Agreement goals supports an orderly transition to the low-carbon economy, while negative lobbying hinders such a transition, increasing the risk of climate change for investors. This is consistent with asks from investor initiatives such as Climate Action 100+ that seeks to ensure companies are transparent about their lobbying activities and conduct them in line with the goals of the Paris Agreement.

Aya Nomizu - Senior Specialist, Climate Action 100+, PRI