この政策アラートは、投資家、気候変動に前向きな企業、政策立案者、メディアを対象にしている。いくつかの気候変動政策は、それに反対する企業や業界の影響により、政策の野心を低下させたり、成立が見送られたりする恐れがある。それらの政策を成立させ、政策の野心を高めるために、企業に対して働きかけを行ったり、報道したりする際に用いることができる資料である。
この政策アラートは、日本政府が発表したGX基本方針(案)に関するものである。これは、22の産業分野のカーボンニュートラル化と、アジアのエネルギー転換に貢献するために、今後10年間で150兆円の官民出資による投資ロードマップを策定するというものである。政府案に対して、 2023年1月22日までパブリックコメント が募集されている。 2023年5月に日本で開催されるG7サミットや、今年から議論が始まる第7次エネルギー基本計画やNDCの改定に向け、気候変動政策(カーボンプライシング、エネルギー、電力、自動車など)への企業の働きかけが強まることが予想される。
日本や世界の気候変動政策をパリ協定と整合させるために、これからの数ヶ月は重要なエンゲージメントの機会となる。
日本政府は、2028年から導入予定の「炭素賦課金」 と、自主的な「排出量取引」 を組み合わせた「カーボンプライシング」の導入を目指している(政策の詳細はリンク先を参照)。導入時期が遅く、自主的な設計のカーボンプライシングが、本当に効果的に排出量を削減できるのか疑問視されている。カーボンプライシングに関する議論は引き続き行われるため、より実効性のある政策を導入するよう、企業が主張する余地は残されている。
現在の草案では、火力発電(LNG、アンモニアと石炭の混焼、水素、CCS)、ハイブリッド車など、IPCCの科学と完全に整合していない技術への資金流入を促進し、再生可能エネルギーには慎重な姿勢を貫いている。また、福島原発の事故以来から続く、原発縮小の方針を大きく転換し、新たな原子炉の建設を提案している。
政策に関する詳細はInfluenceMapのHP GX政策に記載されています。
2022年12月22日、政府は「GX(グリーントランスフォーメーション)基本方針」を発表した。これは、22の産業分野のグリーントランスフォーメーションに向けた規制、資金調達、技術開発の優先順位をまとめている。
アジアにおけるエネルギー転換の支援は、GX戦略の重要な柱の1つである。日本はアジア諸国に対する資金の貸し手、技術輸出国としてより強い役割を果たすことを目指いる。2023年5月に日本が主催するG7サミットでは、アジアを中心とした地域協力が主要な議題の1つとして取り上げられる予定である。重工業からの提案に基づき、火力発電の拡張(LNG、水素・アンモニア混焼、CCS)が議題に大きく取り上げられる可能性がある。
GX戦略では、再生可能エネルギーに対する多額の資金調達(20兆円)を実施する予定であるが、その導入は「3E+S原則」(エネルギー安定供給、経済効率性、環境への適合、安全性)に基づくべきという注意事項が新たに付け加えられた。これは、高コストと断続性を理由にその導入は控えめにすべきという産業界からの意見が反映されている。さらに、国際的な観点については、アジアにおける水素とアンモニアのサプライチェーン拡大のための長期的支援(補助金、規制支援、輸出クレジット、リスク保険など)に比べ、海外の再生可能エネルギー事業への参加を目指す日本企業への支援は限定的である。
2023年1月22日 – GX基本方針(案)に対するパブリックコメントの締め切り
2023年1月20、22、23日 - 3つの原子力政策に関するパブリックコメントの締め切り
2023年3月3日 - GX戦略の柱の1つである「アジア・ゼロエミッション共同体」に関する官民投資フォーラムが3日に開催され、翌日にはパートナー国との閣僚会議が開催される予定。
2023年5月19日-20日 - G7広島サミット。サミットに合わせて政策提言をまとめることを発表している業界団体もある。
2023年6月16日-18日- G7三重・伊勢志摩交通大臣会合
2023年秋以降 - 第7次エネルギー基本計画(2030年エネルギーミックスに係る計画について2024年に発表される予定)や、NDC(国が決定する貢献)の排出削減目標についての議論が活発になる見通し
2023年1月22日までにGX基本方針の1.5℃に沿った政策要素に賛同するコメントを提出する。2023年3月3日に開催される官民合同投資フォーラムへの参加を希望する。
投資家は、次節で挙げる企業に対して、企業の立場がパリの目標にどの程度合致しているかを問うことができる。
主要産業の企業に対して、自らの政策的立場を明確にし、業界団体の政策的立場を支持するかどうか開示するよう求めることができる。
企業や金融機関は、1.5℃に合わせたカーボンプライシング政策と2030年までに再生可能エネルギー比率50%という野心的な目標を提唱する企業連合 日本気候リーダーズ・パートナーシップ (JCLP) への参加を検討することができる。JCLPの現メンバーは、他の業界団体を巻き込み、科学的な知見に整合した気候変動対策への支持を拡大させることができる。
2022年以降にInfluenceMapが収集した、企業や業界団体の政策への関与の証拠によると、日本経済団体連合会(経団連)や日本商工会議所(日商)といった分野横断的な団体や、鉄鋼、電力、自動車分野による著しく後ろ向きな働きかけが行われていることが明らかになった。
企業や業界団体の働きかけの詳細はInfluenceMapのHP 政策トラッカーでご覧いただけます。
重工業分野は表向きには「成長志向型カーボンプライシング構想」を支持しているにもかかわらず、カーボンプライシング政策の野心を弱めるための働きかけをしている。規制よりも自主的な取り組みを求め、経済リスクと既存のコスト負担を強調し、排出枠は有償ではなく無償割当を提唱し、政策の導入時期を遅らせるよう主張するなど、熱心な働きかけを行っている。例えば日本鉄鋼連盟(鉄鋼連)、 経団連, 電気事業連合会 (電事連)、 日本製鉄がそのような働きかけを行っている。日商 とENEOS はいくつかの例外を含みながら、カーボンプライシングを支持するという曖昧な立場をとってきた。 一方で、日本気候リーダーズ・パートナーシップ (JCLP) は、野心的なカーボンプライシングの導入を強く支持し、排出量取引に関しては、1.5℃目標に整合するために無償割当の廃止期限を定めるよう要求している。
エネルギーミックスに対する企業の働きかけは概して後ろ向きで、水素・アンモニアとガス・石炭との混焼、LNG火力発電の必要性を強く主張している。また、再生可能エネルギーを差し置いて、原子力発電を強く擁護する動きも見られる。経団連 は原子力を支持し、再生可能エネルギーの固定価格買取制度は支持していないよう見受けられる。 日商 は再生可能エネルギーや原油・LNGなどの化石燃料と並んで、原子力発電所の再稼働と利用拡大を支持した。石油連盟 は、化石燃料で生産されるアンモニアの利用や、石炭火力発電とのアンモニア混焼を支持した。鉄鋼連 は火力発電の長期的な役割を支持した。
経団連 と日商 は石炭を使ったアンモニア燃焼を含む石炭火力発電政策とそれらの輸出支援策を支持した。さらに 経団連 はCCSやメタン排出の緩和に関する明確な条件を設けることなく、アジアにおける天然ガスの需要開拓における日本の役割を支持しているよう見受けられた。
日本の自動車部門が日本政府に対する働きかけを強めている。自動車に関する規制に反対し、運輸部門における内燃機関とハイブリッドの役割を長引かせることを支持する動きが活発になっている。 トヨタ と日本自動車工業会(自工会)のトップは首相に「規制から入るのではなく」と促した。そして、2022年のG7サミットで日本政府はZEV目標に反対したのだが、トヨタがその姿勢に影響を与えたことを示唆した。トヨタ は電気自動車よりもハイブリッドを推進するよう日本政府に圧力をかけたと報じられている。
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