業界団体によるロビー活動

1997年の京都議定書の採択以降、世界各国の政府が気候変動に取り組むべく実施を試みたものの、企業の働きかけによって中止または緩和された政策は数多くある 拡大

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によって2018年10月に公表された 「1.5℃特別報告書」は、気候変動に対処する緊急性を明示している。2030年までに石炭火力発電の利用は大幅に削減されるべきとし、また、温室効果ガス低排出型へのエネルギー転換を促進するためには、各国政府による強力な政策介入が必要となる点を強調している。しかし、国連環境計画(UNEP)によれば、パリ協定の下で各国が提出している現行のNDC(国が決定する貢献)に基づく政策対応では、2℃目標を達成することすらできず、各国政府によるエネルギー転換促進に向けた意義ある政策の導入が遅れている。この隔たりの主な原因は、世界規模で長年続く既得権益を持つ企業・業界団体による政策導入への反対にある。

企業・業界団体の働きかけによって中止または緩和された世界各国の政策の例を図に示している。以下はその一部にあたる。

  • 2015 - 2016年、業界団体の訴訟により米国クリーンパワー・プランの実施が中止。
  • 2005年、業界ロビー活動がEU排出権取引スキームの導入を妨げ。
  • 2015年以来、自動車業界のロビー活動が米国と欧州の気候変動対策における自動車規制の実施を侵害。
  • IPCCのガイダンスに反し、日本とオーストラリアは既得権益に基づいた一般炭の持続的使用を支持。

気候変動政策に対する否定的なロビー活動への対処を行わなければ、世界的な温暖化対策への道筋は立たないであろう。

カーボンポリシー・フットプリント

企業のロビー活動は投資家にとっての懸念事項 拡大

気候変動に対する企業の影響を測定するにあたり、さまざまな方法が用いられる。 1990年代後半以降、企業から開示される温室効果ガス排出量スコープ1、2、3は事業活動を評価する一つの大きな基準となっている。しかし気候変動対処への緊急性が明示される中、気候変動政策に対する企業のロビー活動の影響は世界的に拡大している。

総額40兆ドルに及ぶ資産を保有する450の機関投資家が参加、支援し、統一的な投資先企業へのエンゲージメントを行う「クライメート・アクション100+(Climate Action 100+:CA100+)」は、気候変動政策をめぐるロビー活動の問題を最優先課題として扱ってきた。インフルエンスマップは、カーボンポリシー・フットプリントの概念を考案し、気候変動政策への企業の関与・働きかけを分析するシステムを活用したデータ提供パートナーとして、CA100+のテクニカル・アドバイザリー・グループ (Technical Advisory Group:TAG)に所属している。

ロビー活動調査方法

評価・採点システムは客観性、透明性、明快さ、使いやすさを重視 拡大

インフルエンスマップは気候変動政策への働きかけという観点から企業および経済・業界団体を評価・採点し、ランク付けする手法を独自開発。

  • このシステムは、企業評価の重要な要素である客観性、透明性、明快さを徹底したものであり、セクター別だけでなく、複数のセクターをまたいで類似企業・業界団体を比較できるのが特徴。
  • 気候変動政策そのものの良し悪しを判断するのではなく、パリ協定と整合した各国政府の政策、およびIPCCの提唱する科学的分析に基づく政策(Science Based Policy:SBP)をベンチマーク(基準)として、政策に対する企業・業界団体の立ち位置を評価。
  • 2013年に公表された国連 グローバル・コンパクトによる「Guide for Responsible Corporate Engagement in Climate Policy(企業による責任ある気候変動政策への関与ガイド)」に基づいた「政策への関与・働きかけ」の定義を引用。関与・働きかけとみなされる企業活動には、広告宣伝、ソーシャルメディア、広報、研究機関への資金提供、規制当局や議員との直接の接触、政治献金などが含まれる。
  • 政策への関与・働きかけを示す情報の収集にあたり、一般公開された信頼できるデータソースを用いている。例えば、企業のウェブサイトや経営陣による発言、規制に関する助言、財務書類や信頼できるメディアの報道記事などがそれにあたる。日本語を含め、さまざまな言語の資料を評価している。

経済・業界団体の影響力

気候変動政策に対する経済・業界団体の姿勢と働きかけ 拡大

国連 グローバル・コンパクトによる「Guide for Responsible Corporate Engagement in Climate Policy(企業による責任ある気候変動政策への関与ガイド)」に明示されているように世界の経済・業界団体は、会員企業の利益になるように政策に影響を及ぼすという明確な機能を持っている。

  • 経済・業界団体は、策定過程にある政策や規制の情報収集や分析に専念する人材を抱えており、会員の利益になるように効果的に働きかけを行っている。
  • 政策当局者は、経済成長と雇用を根拠に議論を展開するロビイストの影響を強く受けている。
  • とりわけ影響力が強いのは複数セクターにまたがる経済団体である。政策当局者との対話において、これらの経済団体のいずれもが自国経済の大部分、往々にして「全体」を代弁していると主張している。
  • その代表例としては米国商工会議所、ビジネスヨーロッパ、日本経済団体連合会(経団連)が挙げられる。
  • これらの複数セクターにまたがる経済団体がパリ協定と整合する気候変動政策への抵抗勢力と化す一方で、最有力会員の多くは個々に再生可能エネルギーへの移行にコミットするなど、明確かつ強固な目標を掲げている。その結果、経済団体とその会員との間で、気候変動政策に関する見解に「ズレ」が生じる問題が発生する。

日本における気候変動・エネルギー政策

反映されない多数の企業・業界の声 拡大

日本政府は2020年3月に、国連(UNFCCC)に再提出するNDC(国が決定する貢献)を発表した。この2020年度削減目標では、2030年までに国内のエネルギーミックス(電源構成)における再生可能エネルギー比率を22~24%(そのうち風力は2%未満)、石炭を26%にするとしている。

  • イオン(株)や富士通(株)、(株)リコー、三菱地所(株)などの優良企業が加盟する複数セクターにまたがる組織である日本気候リーダーズ・パートナーシップ (JCLP)は、とりわけ再生可能エネルギーにまつわる気候変動政策の強化を積極的に支持しており、日本政府に対して「日本の電源構成における“2030年に再エネ比率50%”の達成を目指し、政策を総動員」するよう要請している。その数値は第5次エネルギー基本計画における日本の現行の「23%目標」の2倍以上になる。
  • 脱炭素化に向けて積極的に取り組む企業や自治体、NGOなどが多数参加するネットワーク、気候変動イニシアティブ(JCI)が気候変動対策強化を求める提言を政府に提出した際には、150社以上もの優良日本企業が賛同した。
  • 本研究は、多数の企業および業界の声が政府の気候変動・エネルギー政策に反映されていないという現状を踏まえ、日本におけるそうした政策に対する各業界の影響力についてデータ主導型の分析を行ったものである。

気候変動政策への働きかけを取り巻く状況

限られた業界による積極的な気候変動政策への働きかけ 拡大

日本における産業政策は、産業界と官僚、そして政権を握る政党との間に築かれた緊密な協力体制のもとで策定されている。エネルギー・気候変動関連政策の立案と実施に際して代表格に挙がるのが日本経済団体連合会(経団連)、経済産業省(経産省)、内閣官房(自民党)である。

  • 日本では、気候変動・エネルギー政策への働きかけのプロセスにおいて、経団連とその会員である業界団体が極めて重要な役割を担っている。経団連は、東京に本部を置き、200人以上のスタッフおよび109団体会員から構成されており、気候変動対策においては、業界別の自主的なアプローチを長年にわたって主張してきた。
  • 本研究は、経済・業界団体においては、気候変動・エネルギー政策への関与・働きかけは、とりわけエネルギー基本計画やパリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略、地球温暖化対策などの主要政策に対してなされているという特徴を示している。さらには、業界団体の役員が主要な政府の委員会に参加し、こうした政策に影響を与え、政府との協議において詳細にわたる提言を行うという特徴が見られる。

化石燃料関連業界の限られた意見に基づく働きかけ

重厚長大中心の業界団体が歪める日本の気候変動・エネルギー政策 拡大

本研究は業界団体を通じて政策への働きかけを徹底して行っている業界は7つのみだと示している。

  • 鉄鋼、電力、自動車、セメント、電気機器、石油/石油化学、石炭関連業界が徹底した気候変動政策への働きかけを行っているとされる。しかしこれらは日本の経済活動指数において10%以下のGDPの割合を占める限られたセクターからの意見だと見受けられる。
  • 日本の経済活動指数において70%以上のGDPの割合を占め、経済的観点から非常に重要であるとされる小売、物流、飲食、金融などの主要サービスセクターは気候変動・エネルギー政策に対して戦略的な働きかけをほとんど行っていない。これはイオン(株)などの優良企業が個々に再生可能エネルギーへの移行にコミットするなど、明確かつ強固な目標を掲げている現状を反映していない。
  • サービスセクターの業界団体の中には、自身の業界に直接関連し影響する政策に的を絞って働きかけを行っている団体もある。例えば、不動産協会は、建築物のゼロエミッション化や省エネ化など、気候変動に関連する不動産セクター対象の政策への働きかけを行っている。

まとめ

パリ協定に提唱する政策措置への反対や、遂行の遅れが続くことに対し機関投資家からは懸念の声が上がっている 拡大

  • 日本において、気候変動・エネルギー政策に対する産業界からの働きかけに、より広範囲にわたるを業界の意見を反映させるには、政策課題をめぐる経済・業界団体と政府との関わり合いのあり方の改革が必要と思われる。
  • また、日本経済の中核をなす小売、金融サービス、物流、建設、不動産などのセクターを代表する業界団体が、様々な気候変動関連の政策に対してより積極的に働きかけを行い、それらの政策に関する見解と気候変動対策の目標をより明確に示していくことが重要である。
  • 経団連は「経済界が直面する内外の広範な重要課題について、経済界の意見を取りまとめる」と述べている。気候変動・エネルギー政策への働きかけに関して言えば、この声明は、日本の企業セクターおよび政府によって真偽を問われるべきである。 本研究が示すところによれば、経団連の会員の間でも、ごく限られたセクターだけが気候変動関連の政策への働きかけを積極的に行っていることから、結果的に、経団連はそれら特定の会員の声を優先的に聞き入れていると見られ、それが大部分の会員の意見を反映しているとは考え難い。
  • 従って、複数セクターにまたがる有力経済団体の透明性とガバナンスの改善と共に、非化石燃料セクターによる気候変動政策へのより積極的な働きかけが必要となる。